戦争で使ってはいけない武器とは?~国際人道法の観点から
イントロダクション
国際人道法の講義を受けたことがある人なら、同法が「武力紛争による破壊や苦痛を制限しようとする国際法の一分野である」ことは把握しているかもしれませんが、紛争下にない日本では、ほとんどその内容は知られていません。
国際人道法は、戦時の行き過ぎた行為、いわゆる“非人道的”な行為に歯止めをかけるため、特定の種類の兵器の使用を禁止、またはその使用に制限を課しています。では具体的に、どのような兵器が禁止されているのでしょうか? また、なぜ禁止されるのでしょうか?今回はそうした質問に答えながら、国際人道法が禁止している通常兵器・現代兵器の概要を紹介します。
その前に、国際人道法上欠かせない、敵対行為に関する4つの原則―「区別の原則」「予防の原則」「均衡性の原則」「軍事的必要性の原則」について説明します。これらに照らし合わせて、具体的な兵器について後半で紐解きます。
敵対行為に関する基本原則
「区別の原則」
無差別な攻撃を禁止します。ジュネーブ条約第一追加議定書第51条4項は、無差別な攻撃を「軍事目標と文民又は民用物とを区別しないでこれらに打撃を与える性質を有するもの」1と定義しています。
とりわけ、同項(b)では「特定の軍事目標のみを対象とすることのできない戦闘の方法及び手段を用いる攻撃」2、同項(c)では「この議定書で定める限度を超える影響を及ぼす戦闘の方法及び手段を用いる攻撃」3、第51条5項(a)では、「都市、町村その他の文民又は民用物の集中している地域に位置する多数の軍事目標であって相互に明確に分離された別個のものを単一の軍事目標とみなす方法及び手段を用いる砲撃又は爆撃による攻撃」とそれぞれさらに詳しく規定しています4。したがって、無差別に攻撃する武器やそのような戦争手段・方法を用いることは、国際人道法上の「区別の原則」に反する行為といえます。
「予防の原則」
攻撃の対象は軍事目標に絞られなければなりませんが、それでも文民や民用物が傷つけられることがあります。そのため「予防の原則」は、軍事行動の最中に文民や民用物を傷つけないように常に注意しなければならない、と定めています。具体的には、ジュネーブ条約第一追加議定書第57条2項(a)に記されています。
「均衡性の原則」
武器の使用制限・禁止と関連して、特に注目すべき条項は、第57条2項(a)(iii)で触れている、均衡性についてです。「予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において、巻き添えによる文民の死亡、文民の傷害、民用物の損傷又はこれらの複合した事態を過度に引き起こすことが予測される攻撃を行う決定を差し控えること」5。すなわち、軍事目標を攻撃する際に想定される文民の被害が、軍事的利益を大きく上回ってはならないということを意味しています。
「軍事的必要性の原則」
ジュネーブ条約第一追加議定書第35条は「紛争当事者が戦闘の方法および手段を選ぶ権利は無制限ではない」6と規定しています。
さらに同規定の第2項では、「過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器、放射物及び物質並びに戦闘の方法を用いること」、また、第3項では、「自然環境に対して広範、長期的かつ深刻な損害を与えることを目的とする又は与えることが予測される戦闘方法及び手段を用いること」を禁止するとしています。不必要な苦痛を人々に与えたり、自然環境に過度な影響が及ぶことがあってはなりません。7
武器の使用の禁止と制限
生物兵器
1972年に発効した生物兵器禁止条約(BWC)によると、生物兵器とは「防疫の目的,身体防護の目的その他の平和的目的による正当化ができない種類及び量の微生物剤その他の生物剤又はこのような種類及び量の毒素(原料又は製法のいかんを問わない。)」、または、「微生物剤その他の生物剤又は毒素を敵対目的のために又は武力紛争において使用するため に設計された兵器、装置又は運搬手段」と定義されています8。 締約国は、開発、生産、備蓄、取得または保持が禁止されています。
戦闘員か文民かに関係なく人を攻撃するため、「区別の原則」に反し、攻撃により不必要な苦痛が与えられるため、「軍事的必要性の原則」にも反しています。
化学兵器
化学兵器の定義は、次のようになっています。「(a)毒性化学物質及びその前駆物質。ただし、この条約によって禁止されていない目的のためのものであり、かつ、種類及び量が当該目的に適合する場合を除く、(b)弾薬類及び装置であって、その使用の結果放出されることとなる(a)に規定する毒性化学物質の毒性によって、死その他の害を引き起こすように特別に設計されたもの(c)(b)に規定する弾薬類及び装置の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置」9。
こちらも「区別の原則」と「軍事的必要性の原則」に抵触していて、例えば、枯葉剤を用いた“エージェント・オレンジ”などがあります。一旦使用されれば、戦闘員と同様に文民にも深刻な被害が及びます。
対人地雷
対人地雷とは、次のものを指します。「人の存在、接近又は接触によって爆発するように設計された地雷であって、一人若しくは二人以上の者の機能を著しく害し又はこれらの者を殺傷するものをいう。人ではなく車両の存在、接近又は接触によって起爆するように設計された地雷で処理防止のための装置を備えたものは、 当該装置を備えているからといって対人地雷であるとはされない」。10
文民や子ども、戦闘員を区別するなく、誰が地雷を踏んでも爆発します。主に「区別の原則」に反し、また、不必要な苦痛を与えるものであるため、「軍事的必要性の原則」にも抵触します。
クラスター弾
クラスター弾とは、「それぞれの重量が二十キログラム未満の爆発性の子弾を散布し、又は投下するように設計された通常の弾薬であって、これらの爆発性の子弾を内蔵するもの」11を指します。一つの爆弾の中に小さな爆弾の束を内包し、素早く飛散する爆弾の一種です。
戦闘が終わった後も小さな爆弾が不発弾として多数残り、文民が日常生活を送るうえで危険にさらされ続けることが大きな懸念としてあります。また、爆弾と知らずに拾った子どもが、体の一部を失うなど生涯にわたり障害を抱える結果にもつながります。「区別の原則」や「均衡性の原則」、「予防の原則」に反します。
核兵器
核兵器とは「原子力を制御されない方法で放出することができる装置であって、戦争目的に使用することに適当な一群の性質を有するもの」 12をいいます。
原子爆弾は都市を一瞬にして壊滅し、数十万人を無差別に殺傷するほどの威力を持っています。炸裂によるキノコ雲の頂点は成層圏にまで達するレベルで、雲からは放射性物質を含む黒い雨が降り、被害は非常に広範囲に及びます。また、自然環境も長期的かつ壊滅的な被害を受けます。したがって、「区別の原則」、「予防の原則」、「軍事的必要性の原則」「均衡性の法則」の4つの原則すべてに抵触します。
1 Protocol Additional to the Geneva Conventions of 12 August 1949, and Relating to the Protection of Victims of International Armed Conflicts, (June 1977), Art.51.4.
2 Ibid., Art.51.4.(b).
3 Ibid., Art.51.4.(c).
4 Ibid., Art.51.5.(a).
5 Ibid., Art.35.
6 Ibid., Art.35.
7 Ibid., Art.35.2-3.
8 Convention On The Prohibition Of The Development, Production And Stockpiling Of Bacteriological (Biological) And Toxin Weapons And On Their Destruction, (April 1972), Art.1.
9 Chemical Weapons Convention, (April 1997), Art.2.
10 Convention on the Prohibition of the Use, Stockpiling, Production and Transfer of Anti-Personnel Mines and on their Destruction, (September 1997), Art.2.1.
11 Convention on Cluster Munitions, (May 2008), Art.2.2.
12 Treaty for the Prohibition of Nuclear Weapons in Latin America and Caribbean, (Vol. A/6663, April 1968), Art.5.
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