アフガニスタン:カブールで治療を受ける脳性まひの子どもが5割増加

アフガニスタン
2023.02.02

©ICRC

赤十字国際委員会(ICRC)の記録によると、2022年の1~11月までの間にカブールにあるICRCのリハビリセンターで脳性まひの治療を受けた子どもの数は5割増加しました。具体的には、アフガニスタンの人口の半数に当たる2,000万人以上が深刻な食料不足に見舞われていることを背景として、前年同時期の1,125人から1,673人に増加しました。

「貧困や外傷、医療意識の欠如に加えて、妊娠前・妊娠中に母親が定期検診を受けていないことなどが、赤ちゃんの脳性まひが発生する要因です」と、カブールにあるICRCのリハビリセンターで小児科を統括するムリード・アフマド・ラセク医師は説明します。また、妊娠中の母親の栄養不足や、農作業などの身体活動の増加も、子どもの脳性まひ発症の可能性を高めます。「患者数の増加をアフガニスタンの人道状況の悪化と直接結びつけることはできないにしても、食べ物の入手に苦労している人が増加していて、栄養失調の患者も確実に増加していることは明らかです」とラセク医師は続けます。

早期治療の重要性

脳性まひとは、発達中の脳の損傷によって幼児期に発生する疾患です。それにより、体の動き、筋肉の制御や協応性、筋力、反射神経、姿勢、バランスに影響が生じます。疾患は生涯続くもので、症状は人それぞれです。また、胎生期、出生時、出生直後の3つの段階で発生する可能性があります。「症状は人それぞれですが、年齢によって変化し続けます。例えば、筋力が低下したり、バランスが悪くなったり、発話や聞き取り、座ること、歩行が困難になったり、てんかんを発症したり、視覚・言語・知的な障がいを発症したりします」とラセク医師は続けます。

カブールにあるICRCのリハビリセンターで小児科を統括するムリード・アフマド・ラセク医師が脳性まひの患者を診察する様子 ©Abdul Wakil/ICRC

脳性まひの治療法は確立されておらず、ひとたび損傷した脳を元に戻すことはできません。脳性まひの患者には、アフガニスタン全土にあるICRCの7つのリハビリセンターで無償で提供されている理学療法などの補助的治療が有効です。「こうした治療は、患者の生活の質を向上させ、潜在能力を最大限に発揮させるのに役立ちます。治療開始が早ければ早いほど、改善が見られる可能性は高まります」とラセク医師は語ります。「補助的治療を受ければ、脳性まひの子どもたちは日常生活を送る上で必要なことができるようになり、より自立できるようになります。また、筋肉の緊張や変形、床ずれを防ぐこともできます。患者やその家族の生活全般を楽にすることができるのです」。

ICRCのリハビリセンターで支援を求める家族のほとんどは、この疾患が発症する原因を知りません。ラセク医師は、「脳性まひの子どもが3、4人いる家庭さえあるんです。ほとんどの親が教育を受けておらず、経済的にも苦労しています。また、妊娠中の母親が十分な栄養と休息をとることの重要性についても十分にわかっていません」と語ります。

カブールにあるICRCのリハビリセンターで、脳性まひの子どもに理学療法を行うラセク医師 ©Abdul Wakil/ICRC

娘の世話をするために仕事を辞めざるをえなかったスーザン

多くの場合、家族がそうした子どもたちの世話をするには、途方もない困難が伴います。カブールのリハビリセンターで治療を受けている一人の少女の母親であるスーザンは、親子の旅路についてこう語ります。「私の娘は、1歳のときにこのリハビリセンターで治療を始めました。もう7年間も治療を受けています。私は以前、教師として働いていましたが、娘の世話をするために辞めざるをえませんでした。食事や着替え、移動するだけでも大変なんです。父親も以前は働いていましたが、今は無職です。収入源がないため、経済状況はよくありません。食事は、親戚の援助があるときにしかできません」。

スーザンは、リハビリセンターで運動療法や物理療法などの理学療法を受けたおかげで、娘がある程度自立できるようになったと語ります。「いつか、子どもが食べたり、座ったり、学校に行ったり、自分のことができるようになればと願っています」。

カブールのリハビリセンターで、スーザンの娘の運動を手伝う理学療法士 ©Masoud SAMIMI/ICRC

アフガニスタンの経済危機が数百万もの人々に影響を及ぼす中、脳性まひの子どもの家族は、リハビリセンターにたどり着くことさえ困難な状況にあります。カブールのセンターに東部ホーストから息子を連れてきたヌールラさんは、息子は4年前から治療を受けていると語ります。一家の大黒柱であるヌールラさんは、「医師のアドバイスと定期的な運動のおかげで改善が見られ、能力の20%ほどが回復したんです」と語る一方で、移動の苦労も語ります。「息子をここに連れてくるのに、お金を借りてレンタカーを借りなければなりませんでした。15日後にまた来るように言われましたが、また車を借りるお金を工面できるかどうか心配です」。

リハビリセンターで、診療を受けるために順番待ちをするヌールラ親子 ©Masoud SAMIMI/ICRC

カブールのリハビリセンターでは、300人超の新規登録患者や定期的な治療を受けている750人余りの既存患者を含めて、毎月1,000人以上の脳性まひの患者が治療を受けています。毎月多くの患者がこの施設で治療を受けているものの、適切な医療を必要としている患者は他にもたくさんいます。今日現在、ICRCのリハビリセンターの治療待ちリストに登録された脳性まひの子どもの数は、1,200人超に上ります。

カブールのリハビリセンターで治療を受けている脳性麻痺の子どもたちの様子 ©Murid Ahmad Rasekh/ICRC