ICRCの2015年活動資金要請を公開;人道支援はかつてないほどの規模に
ジュネーブ(ICRC)-赤十字国際委員会(ICRC)は、2015年の人道支援活動資金として、16億スイスフラン(約1,858億7400万円)の拠出をドナー国に呼びかけました。これは、武力紛争やその他の暴力を伴う事態に苦しむ何百万もの人々を支援するためのもので、当初見込んでいた予算から25%増加し、過去最大の要請となります。
※ICRCは毎年11/12月に、ジュネーブ諸条約の加入国に翌年の活動資金を要請。拠出国などの詳細はこちら
「紛争の犠牲を強いられている人々のニーズを満たし、様相が変化する武力紛争に対応するには、今回要請している規模の予算が必要です」とICRC総裁のペーター・マウラーは、来年度(2015年1―12月)の予算を記者会見で公表しました。「私たちは、新たな種類の危機を目の当たりにしています。それは地域性を伴うこともあり、これまでの国内・国際的武力紛争のように一括りできるものではなくなってきています。職員の身の安全の確保が叶わない状況が増えるなか、支援を必要としている人々に寄り添うことに大きな困難が伴っています」。2015年の予算には、当初想定していた現場での活動費13億8000万スイスフラン(約1,603億1600万円)と、現場を支えるジュネーブ本部に充てられる1億9440万スイスフラン(約225億8400万円)が含まれます。
私たちは、予測不可能で様々な要因が複雑に絡み合う紛争の現場で活動をしていますが、共通しているのは、膨大な人道ニーズに支援が追い付いていないという点です。不安定な状況に置かれた何百万もの人々は、以前にもまして、保護と支援を必要としています。シリアやガザ、イラク、南スーダン、ウクライナでの危機は、一般市民に壊滅的な影響を及ぼしています。何年にもわたる紛争から立ち直ろうともがいていた西アフリカでは、エボラ出血熱により保健・衛生サービスの脆弱性が問われ、経済及び食料危機の深刻化が進んでいます。
膠着状態が続き、周辺諸国にも影響が及んでいるシリアは、昨年に引き続き2015年も活動規模が最大となる予定で、1億6400万スイスフラン(約190億5200万円)の予算が投入されます。そして、南スーダン、アフガニスタン、イラク、ソマリア、コンゴ民主共和国、イスラエル/パレスチナ自治区、マリ、中央アフリカ共和国、ウクライナと続きます。
中東やウクライナ、南スーダンのように国際社会の注目が集まる国がある一方、見過ごされるか完全に忘れられている国があるのも事実です。アフガニスタンや、コンゴ民主共和国、ソマリアでは、一般市民に対する暴力や非人道的な行為は激しさを増し、数十年に及ぶ紛争によりもともと悪化していた人道状況に追い打ちをかけています。
今後数年間で、私たちが優先的に取り組むのは、負傷者の外科手術や被拘束者の治療、障がい者への身体的リハビリテーションの提供といった保健・医療分野の拡充です。「次に、被拘束者や国内避難民、難民、移民の人道ニーズに対する私たちの対応を強化していきます」とマウラーは話します。
3つ目の優先課題は、中央アフリカ共和国や中央アメリカの諸国、コロンビア、コンゴ民主共和国、レバノン、マリ、南スーダンなどで横行する性暴力への対応に力を尽くすことです。「性暴力が起きる原因とその被害・影響に対処するために、治療や精神的サポートの提供だけでなく、予防措置や啓発活動も取り込んだ包括的な活動を展開します」。
「最も重要なのは、必要としている人により効果的かつ迅速に支援を届けるために、私たちの支援のあり方を変革していかなければならないということです」とマウラーは続けます。総裁はまた、他の人道支援組織が入って行かないマリ北部やナイジェリアの一部地域で人道支援活動を行っているのはICRCであり、今後も継続していく、とも語りました。
今年は、安全に活動を行うという意味で最も大きな課題を突き付けられた年ともいえます。中央アフリカ共和国やリビア、ウクライナで3名の職員が命を落としました。現在も3名の職員が拘束されているシリアでは、約4年前の紛争ぼっ発以降、40名のシリア・アラブ赤新月社のボランティアの命が奪われました。人道支援活動と職員の身の安全の確保、この二つのバランスが保たれるよう努力しなくてはなりません。
また私たちは、武力紛争やその他の緊急事態において、医療を安全に届ける必要があります。「医療従事者や施設、車両が武装勢力の標的となっている国もあります」とマウラーは話します。「このような事態は、医療へのアクセスを妨げるだけでなく、医療サービスそのものを弱体化させることにつながります。この許しがたい状況に終止符を打つために、あらゆる手を尽くします」。
大規模な緊急事態に対応していくために、各国の赤十字・赤新月社との協力関係を強化し、影響力のある組織やグループとの関係も拡げていきます。「私たちを必要としている人々に手を差し伸べ、増え続ける人道ニーズに対応するためには、中立で公平、独立した組織としての人道支援活動を維持していくことが重要です。また一方、情勢がますます複雑かつ危険になってきている今だからこそ、他の組織と緊密に協力してくことも不可欠です」。
1スイスフラン=116.1710037円(2014年11月時点)
原文は本部サイト(英語)をご覧ください。