ICRCインターンが聞く、日本人職員のフィールドライフ :片岡 昌子(フィールド要員)
<インタビュー by 佐々木 貴俊、土方 理紗子>
【略歴】
日本赤十字社からICRCに出向中。初任地はミャンマーで、フィールド要員として働く。今年8月からパレスチナ自治区のICRC事務所に異動。
ミャンマーではどんな活動をしていたのですか?
一つ目は、ミャンマー国内の被拘束者を訪問しました。刑務所や収容所にいる人たちを訪問し、3~4日かけて塀の中の生活環境を調査します。
二つ目は、北部のカチン州にある避難民キャンプへ必要な物資を届けたり、国内避難民が自立できるよう生計を立てる支援をしたりしました。
紛争が行われている実感は普段はないんですが、まだまだ身近なんだな、と感じていました。現地スタッフの中には避難民キャンプから通っている人もいます。ある日、その方の旦那さんが地雷を踏んで亡くなってしまったんです。それも、お墓参りに行った先で。身近なところに戦闘の被害を受けた人たちがいました。でも、みんな現実を受け止めて頑張っているんです。すごいな、と思います。
捕らわれている人たちの訪問について、ICRCが具体的に何をするのか教えてください。
ICRCのチームには、医療だけでなく設備や衛生状況の維持・管理など、多様な専門性を持ったメンバーがいます。例えば、安全な水が行き届いているか、排水・下水設備が機能しているか、被拘束者はクリニックのような所内の保健室で適切な医療を受けられているか等、被拘束者の居住空間が人道上の基準を満たしているかを調査します。私自身は、所内での待遇や日々困っていることについて、被拘束者にインタビューしていました。また、精神的な病気を抱えている人のケアをめぐって、私たちのアドバイスに収容所のスタッフが耳を傾けてくれました。
ICRCが所内の環境改善を直接手掛けるというより、まずは収容している管理当局に働きかけて改善を促すんです。当局もICRCのアドバイスは歓迎してくれるんですよ。
そうした訪問を行う中で難しかったことはありますか?
実は、ミャンマーでの被拘束者訪問は、2013年に7年ぶりに再開したばかりでした。そのため、改めて施設の場所などを把握する必要がありました。毎日刑務所から帰ってきたら、チームミーティングをしてそれぞれが集めた情報を共有しました。そこから何が一番大きな問題かが見えてくるんです。話をするなかで、次はこの辺を詳しく聞いてみようとか、こういう話があったけれど他にも同じようなケースが起きているか探ってみようとか、チームで方針を決めながら活動を進めていました。
7年の中断期間を経て久しぶりに訪問を再開したため、私たちに初めて会う人たちから信頼を得るまで時間がかかりました。初めて私たちを見る人たちは、「何をしにきたんだろう」「この人達に話して大丈夫なのかな」と思いますよね。また、「刑務所での待遇を正直に話すと、自分が話したことがバレてあとで仕返しされるんじゃないか」と躊躇する人もいました。
なのでやはり、自分たちの活動の目的や方法を、被拘束者の方だけでなく収容所の職員に対しても、丁寧に説明し続けることが重要だと思いました。信頼関係を築くには、ICRCがなぜこういう活動しているのかを知ってもらうことが大切なんです。
被拘束者は、まさに老若男女いて、それぞれ違うニーズを持っています。なかには、妊娠している人や、乳飲み子を連れたお母さんもいました。そこで、「小さな子どもたちが生活しやすい環境をつくる支援をします」と被拘束者に声かけしたり、収容所へ提案したりしていました。
驚いたのは、長い間収容されている人がICRCのことを覚えていたことです。現地スタッフや通訳などビルマ語ができる職員は長くICRCで働いているので、まるで古い馴染みが来たかのように、「元気だったかい」と声をかけてくれたのは嬉しかったですね。
北部のカチン州での活動を教えてください。
状況は刻々と変化しています。再発した紛争で多くの人がキャンプへの避難を余儀なくされています。カチン州とシャン州では約10万人の国内避難民が発生していて、なかには3,4年近くキャンプで生活している人もいます。
現在は和平交渉が続いていますが、先行きは不透明なままです。避難民キャンプの人たちは、いつか村に帰りたいと望んでいながら、いつ帰れるか分からない不安を抱えて生活しています。現在、和平へ向けての話し合いが進められているので、それがうまくいく事を願うばかりです。
キャンプで暮らす方たちには、冬を越すために必要な物資をミャンマー赤十字社と一緒に配りました。山間部では雪が降るので、フリースのジャケットや毛糸の帽子、厚手のマットレスなどを配りました。
避難生活が長引くにつれて、緊急時の救援物資の配布から、より長期的な生計支援へと活動の重点が移りつつあります。生活者自身が何をやりたいか、何ができるかについて話し合い、また市場のニーズなども丁寧に調査して必要な支援を決めていくことにしました。
例えば、もともと農業で生計を立てていた人が多いので、田畑に使えそうな場所を工面し、種や苗を配って自給自足できるように支援しました。また、少額融資をして新しいビジネスを始める支援もしています。事前に研修を開き、雑貨屋や養豚、お花の販売など、市場でしっかり需要があるビジネスプランをそれぞれに持ち寄ってもらうんです。そのプランを一緒に固めていき、一定のお金を渡して自活する道を開きます。
現地でICRCの中立性を実感したエピソードはありますか?
政府側にも反体制側にも、助けを必要な人には支援を届けます、と理解を求めました。私たちの行動予定は、隠さずに政府側にも反政府側にもオープンに伝えています。私自身も、試行錯誤しつつ中立であることを行動で示していきました。地道に信頼関係を築くことを常に続けていかなければいけない、といつも思っています。
中には、村を焼き討ちされるなど辛い経験をしてきた人たちから、人道支援を掲げている組織として何ができるのか、と問い詰められ答えに窮する時もありました。ICRCはミャンマー政府との関係は比較的良好ですが、軍との対話をより深めていくことが今後の課題となっています。努力が実を結ぶよう、一つ一つの活動を積み重ねていきます。私たちが具体的な行動で示せば、「なるほど」と相手も徐々に理解してくれるんだろうと思っています。
世界中で紛争が絶えない現実を、赤十字の職員としてどのように受け止めていますか?
私自身、ミャンマーに行くのは初めてで、少数民族のいる地域での紛争については詳しく知りませんでした。普通の生活をしていた人が、ある日突如その日常を奪われるという紛争の被害を現場で目の当たりにするときは、世界中の紛争が終わればよいのにと強く思います。
紛争が絶えないという現実を最前線で目の当たりにする赤十字の職員としては、支援を継続していくこと、被災した人たちへ寄り添い続けることが重要だと思います。戦争を終わらせることはできませんが、戦闘の被害をできるだけ小さく抑えるために、支援を必要とする人たちの声へ耳を傾けることが赤十字のスタンスです。
私は、東日本大震災の時に日本赤十字社で働いていました。震災もまだ終わったとは言えませんが、今でも復興に尽力している人たちがいることを忘れたことはありません。ミャンマーをはじめ海外の任務でも、赤十字の一員として、人々が生きようとしている力を横から支えられる存在になりたいと考えています。
片岡さんが考える、赤十字で働く魅力とは何ですか?
“Think globally. Act Locally”。
グローバルな視点を持ちつつ地域密着で活動できることが、赤十字の魅力だと思います。私自身は、日本で大学を卒業してNGOでボランティアをしてたんですが、その後に奨学金をもらえる機会があったのでオランダの大学院で国際法を専攻しました。そのときに、ICRCのクアラルンプール地域代表部(マレーシア)でインターンシップをする機会をいただいたんです。
学生の時に国際法を勉強したので、それまでは「ICRC=人道法」っていうイメージだったんです。実際にICRCが現場に入って救援活動をしているっていうことをを知らなかったんですね。赤十字は人道法を掲げるだけでなく、現場に密着して支援しているんだ、ということをマレーシアで知りました。ICRCでインターンをしたのがきっかけで日本赤十字社を知ることになり、帰国した私は日本赤十字社で働き始めました。Act locallyを体験するには、まず各国の赤十字社がいいかなって思ったのがきっかけです。
現場での息抜きはどうしていましたか?
私は、視覚障がいのある方がやっている「あん摩」のようなマッサージに行くのが好きでした。そのマッサージは、日本のNGOの支援で始まったといいます。あと、和食を食べること。今は首都のヤンゴンだけで100軒以上の日本料理のお店ができているので、外国人のスタッフと一緒に毎週違う店を試していました。他にも、ドイツやフランス、インドやパキスタンから来ている同僚と、それぞれの国の料理を持ち寄ってホームパーティーをするなどしていました。
初任地で戸惑ったことなどありましたか?
私がいたカチン州は、外国の人と働いたことのない人たちが多かったんですよね。なので、外国人スタッフが現地の文化の違いに悩んでいました。例えば、Noと言わないところなんかは、若干日本人に似ているんですね。「Yesって言ったのに、どうしてやらないのかわからない」と外国人の同僚は言っていました。
地域のことや文化、立ち居振る舞いなど、とにかく現地スタッフに学ぶことが多かったです。ミャンマーでは、外国人には握手を求めてきます。女性にハグはしません。あと、お坊さんにお尻や足を向けてはいけない、とか。ごはんは手で食べるのが基本なんですが、最近ではスプーンやフォーク、おはしを使っている方も出てきています。
最後に、新しい赴任地での目標は何かありますか?
赤十字について自信を持って紹介していくことと、言葉が通じなくても現地のスタッフと良いチームワークを築くことです。みんなが仕事がしやすいと感じるチームづくりを心がけます。