前線を超えてモノをいう“中立”−助けを求める人たちに辿り着くために

スイス・ジュネーブ本部
2025.09.29
several people walking toward an ICRC airplane in a air field

©ICRC

赤十字国際委員会(ICRC)は人道支援組織です。その仕事は、紛争の被害を受けたあらゆる人びとに手を差し伸べること。私たちは、世界で最も困難な状況下で助けを必要とする人びとに寄り添っています。それを可能にしてくれるのが、組織の“中立性”です。それは、対立する当事者間の架け橋として行動し、紛争の影響を受ける人たちのニーズの把握と、命に直結する支援をどうやって届けるかにのみ焦点を当てられることを意味します。

ICRCは創設以来、160年以上にわたって中立、独立、公平の原則を掲げてきました。中立の概念は、必ずしもすべての人に理解されるものではありませんが、人びとを最大限支援できる、最も現実的なアプローチだと考えています。

誰が正しくて、誰が間違っているか、など善悪の判断は下しません。そうすることで、対立する紛争当事者双方との対話が可能になります。どちらにも肩入れしない姿勢が紛争当事者から信頼を得ることにつながり、偏ることなく民間人や捕虜のための最善の活動がおこなえるのです。世間では非難囂々(ごうごう)でも、ICRCがそうした論争に加わらないことで、紛争当事者は他の団体に閉ざしているドアを私たちには開けようという気持ちになるのです。

このアプローチによって、戦闘の被害者と紛争当事者の双方に可能な限り満遍なくアクセスでき、支援を提供したり、紛争下の人道状況に影響を与えたりすることが可能になります。世界各地の紛争地で、前線にいるあらゆる立場の人びとに辿り着けるのです。中立が常に功を奏するわけではないですが、私たちの経験上、もっとも効率的な方法だと考えます。

戦争や武力紛争において、人びとは人道支援を必要とし、離ればなれになった家族は再会を望み、捕虜は家族の元へ戻らなければなりません。中立であるからこそ、現代の紛争においてこうした必要不可欠な支援を提供することができるのです。

 

活動の中の”中立性

2020年10月にICRCがイエメンで実施した被拘束者の送還支援は、人道上特筆すべき活動となりました。1,000人余を対象におこなったこの活動は、一夜にして実現したわけではありません。これまでの歴史の中で、世界各地の紛争当事者が捕虜の釈放や交換、遺体の送還などをおこなう際に、私たちが人道的関与をしてきた実績があってこそ成し得たことです。

第三者として携わることで、人道上の合意がきちんと実施できるようになり、安全な経路による避難支援や、被拘束者と民間人の保護が可能となります。

 

中立であることで家族もつながる(再会支援と行方不明者の情報収集)

中立的な仲介者としてのICRCの最も重要な役割のひとつに、紛争によって離ればなれになった家族の連絡回復・再会支援があります。過去数十年にわたって、私たちは赤十字通信で家族間のやり取りを促進し、書類の送付を手伝い、母国を追われたり拘束され自由を奪われたりした人びとの帰還プロジェクトに携わってきました。また、遺体の搬送を支援したり、消息を断った身内の帰りを待つ多くの家族に情報提供をおこなったりもしています。

  • アルメニアとアゼルバイジャン間の紛争では、行方不明者の捜索や被拘束者交換の際に仲介役を担い、家族に消息を伝えました。
  • エリトリアとエチオピア間の紛争でも、捕虜の送還をサポートし、家族を再会へと導きました。
  • エチオピアのティグレ州に関連した紛争では、被拘束者の帰還と家族の再会を支援しました。
  • イランとイラク間、イラクとクウェート間の紛争で行方不明となった数千人の安否が、ICRCが仲介した第三者委員会による何十年にも及ぶ調査で明らかになりました。
  • 2022年に拡大・激化したロシア・ウクライナ紛争では12,500を超える双方の世帯に、消息を断った身内の安否を知らせました。現在も数万世帯が安否情報を待ち望んでいます。

 

中立であることで捕虜が家に帰れる(捕虜と被拘束者の釈放と交換の手助け)

  • イエメンでは2020年、紛争当事者間の信頼醸成に注力し、交渉を仲介した結果、双方に捕らわれていた人びとが釈放され、家族のもとに戻ることができました。ICRCは折に触れてこうしたオペレーションをおこない、2025年1月には、153人の釈放に携わりました。
  • ロシア・ウクライナ紛争では2022年に激化して以来、双方の捕虜数千人に面会しました。収容所の訪問は、収容状況をモニタリングするため、そして家族との通信を可能にするためで、13,000通近くのメッセージを届けました。
  • コロンビアでは、武装集団に数十年拘束されていた人びとが家族のもとに帰る際、ICRCが移送に関与しました。
  • アフリカのスーダン、マリ、セネガルでも、武装集団に捕らわれていた人びとが、ICRCの支援により関係当局に安全に移送されました。

 

中立であることで戦火にいる一般市民の命が守られる(避難と人道援助

ICRCは、民間人や医療従事者、人道支援物資のための安全な経路を確保します。

  • イスラエルおよびパレスチナ被占領地では、患者の搬送や家族の再会支援に関与し、避難者と人道支援のための安全な経路の確保について当事者と話し合いました。
  • ロシア・ウクライナ紛争が拡大・激化した当初、アゾフスターリ製鉄所を含むマリウポリからの民間人の安全な避難経路をめぐって紛争当事者同士の対話を促し、仲介しました。また、弱い立場に置かれて特別な支援を必要とする人びとに対して、家族と再会したり安全な場所に避難したりする際に国境をまたいで往来できるようサポートしています。
  • シリアでは、負傷者の搬送と人道物資配付をおこないました。
  • 2023年6月、スーダンの首都ハルツームにある孤児院の子ども300人余を安全な場所に避難させました。
  • アフガニスタンの人びとが医療施設へアクセスできるよう、そして医療施設が戦闘の影響から守られるよう活動しました。

 

どんな時でも人びとの側に

ICRCは160年以上にわたり、世界中で中立の立場で関与してきました。中立を活動の軸とすることで、他者が手を差し伸べるのが難しい状況においても、助けを必要とする人たちに辿り着くことができます。戦火にいるあらゆる立場の人びとのニーズに応えるために、私たちはすべての人と対話します。

 

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