ICRC総裁ロシア訪問:紛争下の人道危機打開に向けて

ロシア
2022.03.25

©ICRC

モスクワ ― 赤十字国際委員会(ICRC)のペーター・マウラー総裁が2日間のモスクワ訪問を終え、ロシアの政府当局と現行の人道上の問題について話し合いの場を持ちました。中立・公平を掲げる人道支援組織としてICRCは、すべての紛争当事者と、対話を通じて、国際人道法を尊重するよう促す権限を与えられています。国際人道法は、武力紛争法ともいわれ、民間人を守り、支援を最も必要とする人に必ず手を差し伸べることを謳っています。

マウラー総裁は、セルゲイ・ラブロフ外務大臣やアレクサンドル・フォミン国防次官ほか、ロシア赤十字社の社長やロシアの人権高等弁務官とも面談しました。

今回のロシア当局との対話は、国際人道法と人道ニーズに関する、従来から続いている二者間協議の延長です。私は、先週のキーウ(キエフ)訪問に続いて、今週はモスクワに入りました。これまでドンバス地方にも何度か足を運んでいます。紛争当事者すべてに対して、訴えることはいつも決まっています。生命を守り、紛争の被害を減らすこと。とてつもないニーズが生じている今、ICRCは人道支援を加速・拡大し、ウクライナ紛争で被害を受けている人々に寄り添います。

ICRCペーター・マウラー総裁

政府当局との協議では、焦点はウクライナ紛争でしたが、シリアの人道問題にも触れました。ウクライナ危機がもたらす深刻な人道上の懸念として、議題に上がったのは次の事項です。

安全な経路

総裁は、以下の二点をもっとも強調しました。

  • 戦闘下の都市に暮らす民間人が移動できるよう、紛争当事者は便宜を図らなければならない。
  • 人道支援のための物資がきちんと入り込む余地を与えなければならない。
  • 複数の安全な経路の設置に加えて、実施条件の細部に至るまで当事者が合意することを強く訴えています。民間人が戦闘を逃れられるよう、それらの条件には、開始日時や期間、場所などが含まれます。

    民間人と公共インフラの保護

    ICRCが懸念しているのは、すさまじい破壊力を帯びた暴力が民間人に与える被害です。どこにいようが、民間人、そして戦線から離脱して直接戦闘行為に携わっていない人たちは、国際人道法で守られています。民用物や公共インフラも攻撃から守られる必要があります。病院や給水システム、電力供給施設なども含まれます。民間人の被害を抑えるために、均衡性、区別、予防の3つの原則をきちんと守り、軍事行動に出る際には実践されなければなりません。

    捕虜と民間人被拘束者、行方不明者

    ICRCには、捕虜や被拘束者を訪問する権限が与えられています。これは、民間人や戦線から離脱した人々を守るために、紛争当事者に課されている義務の中でも特に重要なポイントです。母国への帰還や、尊厳を保った遺体の取り扱いは、当事者のどちら側であろうと実践されなければならず、また、家族に対しても消息や安否の情報を知らせることが非常に重要です。すべての紛争当事者は、こうした人道上の主要な役割を果たす義務を有し、またその恩恵に与る権利も有します。

    ICRCの活動規模を拡大

    ここ数週間で、医療物資を含む300トン超の援助物資をトラックでウクライナに届けました。例えば、オデッサの複数の病院に戦傷者用の医療キットを提供、また、ヴィーンヌィツャやドニプロに避難している人々には衛生用品や救援物資を配付しました。リシチャンシクやセベロドネツクの避難所には、2.5トンの食料と衛生用品を寄付しました。ドンバス地方においては、2014年以来、100万人以上が水を確保できるよう支援し、140を超える医療施設を支援してきました。ドネツクでは先週、5カ所の医療施設と複数の民家の修繕のため、建築資材を提供しました。

    ペーター・マウラー総裁のツイート