リビア: 紛争で散り散りになった家族のために
赤十字国際委員会(ICRC)は、紛争下で行方不明になった身内を探す家族を支援しています。ここでは、リビアで離散家族支援事業に取り組んでいるICRC職員の体験談を紹介します。
ICRCの同僚たちは、紛争で離ればなれになった家族の再会支援において、「追跡調査」や「家族間の連絡の回復・維持」、「離散家族再会」、「文書移管」、「赤十字通信」などの専門用語を使用します。
そして、紛争や自然災害、移住によって愛する人と離ればなれになり、支援を受ける人たちを「受益者」と呼びます。こうした専門用語は、活動の効果を測ったり、評価したりして最終的に年間の統計をまとめることを容易にしてくれます。一方で、一般の人にとっては、しっくりこない単語です。
ICRCの報告書は、実績や数字が散りばめられていて完成度の高いものになっていますが、そうした文字や数字の羅列から、人々の心の中を垣間見ることはできません。離散家族しかりです。消息を断った身内への計り知れない愛が人々を動かし、安否を知りたいと駆り立てます。そして、再会を願う人の内から、決して尽きることのない「意志と力」が湧き上がるのです。
ICRCに登録されている行方不明者の数は、リビアだけでも1,600人に上ります。そうした数字の裏には、愛する人の消息を知りたいと待ち望む、何千もの父親や母親、そして子どもたちがいます。「愛」を行動で示すとしたら、行方不明になった身内を探す家族の行動こそが愛です。
「愛」と「勇気」を同義とするならば、5歳の少女ライラ(仮名)はたくさんの勇気を胸に秘めていました。海外で暮らす家族と再会するため、長い旅路を辿らざるを得なかったにもかかわらず、彼女は愚痴一つ言わず、常に前を向いていました。再会を心待ちにしている祖父がいたからです。
祖父とは一度も会ったことはありませんでしたが、ICRCが用意したテレビ電話で過去に何度か話していました。ライラは、大好きな母親の話をして、懐かしみました。紛争下のリビアで両親を亡くして2歳で孤児となりましたが、愛の存在をこの世に確信し、いつか必ずたどり着けると信じていました。
次に、アニータのエピソードを紹介します。夫のルカと4年も離ればなれになっていましたが、亡命先のヨーロッパでついにルカと再会できることになりました。ルカは、カイロにある大使館から滞在許可証を発行してもらう必要がありましたが、リビアにいる彼は渡航証明書を持っておらず、アニータとの再会に必要な領事館の手続きを踏むこともできなかったため、結局、期限内に許可証を受け取りに行くことができませんでした。
アニータとルカは戦火を逃れるなかで、3,000マイルも遠く離れてしまいました。この間、二人をかろうじてつないでいたのは、愛と忍耐でした。ルカがヨーロッパでアニータと再会するためには、二種類のビザを取得してリビアからエジプトへ行き、生体認証を行う必要があります。こうした度重なる障害にもかかわらず、アニータはルカと再会できると信じていました。事態の打開を求めて複数の国際NGOに打診した結果、最終的に再会への道は開けました。
最後に紹介するのは、女子大生ランダです。彼女は、赤十字通信を利用して、海外で拘束されている父親に助言を求めました。この数年間、父親はいつも機知に富んだアドバイスを添えるか、可愛い花の絵を書いて返信してくれました。今回も彼女はそうした便りを期待していました。
別の被拘束者は、赤十字通信を通じて、離ればなれになっている母親に慰めのメッセージを添えました。「祈りを捧げているとき、二人の魂はつながっているよ」。
リビアで消息を断った1,600人
私たちが武力紛争や移住がもたらす絶望や悲劇をなんとか理解しようとする時、合理性を求めて安易に数字に頼るという行為をやめたとたんに見えてくるものがあります。行方不明になった息子の消息を知りたいとICRCのもとにやってくる、疲れ果てた年配の女性の姿や、二度と会えないことを知りながら、亡くなった夫の遺体の捜索状況を尋ねにくる妻の姿を目にするたびに、事の本質が見えてくるのです。
ICRCは2018年以来、リビアの国内外で23人を家族再会へと導きました。また、被拘束者とその家族が交わした赤十字通信などのメッセージ1,000件や、電話やテレビ電話による通信1,100件を支援しました。
赤十字国際委員会(ICRC)は、公平で中立、かつ独立した組織で、武力紛争およびその他の暴力の伴う事態によって犠牲を強いられる人々の生命と尊厳を保護し、必要な援助を提供することをその人道的使命としています。ICRCは国際人道法および世界共通の人道的諸原則を普及させ、また強化することによって人々に苦しみが及ばないように尽力しています。1863年に設立されたICRCは、ジュネーブ諸条約および国際赤十字・赤新月運動の創設者でもあります。
国際赤十字・赤新月運動には、世界に広がるファミリーリンク・ネットワークがあります。世界192カ国の赤十字社、赤新月社やICRC、国際赤十字・赤新月社連盟で構成されるこのネットワークを通じて、武力紛争や自然災害、移住などによって大切な人と離ればなれになったり、連絡が取れなくなったりした人々を支援しています。