サヘル地域:紛争による食料危機が農閑期に悪化の恐れ

サヘル地域
2022.06.01

サヘル地域(ICRC)―ブルキナファソやマリ、ニジェール、モーリタニアでは、持続的な食料危機が紛争により悪化したことで、食料在庫が最も乏しくなる、収穫期と収穫期の間の「農閑期」に1,050万人以上が飢餓に陥る危険にさらされています。

紛争のために4カ国で、これまでに少なくとも200万人が避難民となりました。避難民の7割はブルキナファソ人で、情勢の悪化により、人口の1割近くにあたる180万人が安全を求めて避難を余儀なくされました。

すでに弱い立場に置かれた人々が、移動を余儀なくされれば、さらに追い詰められます。農業や牧畜を行うための土地を利用できなくなったコミュニティー全体が、生き延びるために、特に食料や水を求めて援助に頼るようになります。

とりわけ懸念されるのは、こうした地域の中でも、情勢不安から支援組織がアクセスできない地域に留まっている数百万人の状況です。特にブルキナファソのパマやマンシラ、ケルボ、マジョアリ、ジボなどの街で暮らす一部の住民は、劇的な状況に陥っています。ますます狭い場所に封じ込められ、逃げることもできず、孤立したまま深刻な食料危機に直面しています。

サヘル地域における暴力事態は食料危機を悪化させるだけでなく、多くの場所で食料危機の直接の原因となっています。状況は危機的です。犠牲となっている数百万もの人々を支援するために力を合わせて取り組まなければ、農閑期に大惨事がもたらされる懸念があります。

ICRCアフリカ事業局長パトリック・ユーセフ

気候変動の悪影響を受けているこの地域は、ここ数十年で最も深刻な干ばつにも見舞われています。数千人の死者を出した2011年の大干ばつに匹敵する、記録的な雨不足により、農作物の生産量が激減しています。

ニジェールとモーリタニアの食料生産高は、過去5年間の平均と比較して4割、マリは1.5割、ブルキナファソは1割減少しています。モーリタニアでは、山火事や干ばつの影響を受けた地域で、バイオマスの生産高が8割も減少しています。

食料不安の主な原因としての紛争

サヘル地域で暮らす8割以上の人々は、農業に依存して生計を立てています。地域が暴力下に陥ると、多くの場合、人々は避難を余儀なくされます。つまり、作物を植えることも、手入れや収穫をすることもできず、コミュニティー全体が深刻な飢餓や飢饉に陥る危険にさらされます。

ニジェールやブルキナファソと国境を接する、マリ共和国のリプタコ・グルマ三国国境地域では、作物が破壊され、人々が逃亡を余儀なくされる中、100以上の村で耕作地の8割が失われました。ブルキナファソのヤテンガ県とロルム県では、ICRCが収穫後に観測したところ、収穫量が最大9割減少していました。

情勢不安に陥ったブルキナファソの北部地域では、3割から5割の耕作地が失われました。一方で、ニジェールのティラベリやタウア地域では、暴力の脅威により農地にアクセスできなくなり、村全体が国内での避難を余儀なくされ、数十万人が生計を断たれました。

水不足による事態の悪化

ブルキナファソでは、国レベルで水の危機に見舞われています。紛争下にある地域では水源が破壊され、それ以外の地域では水インフラが劣化し、人々の暮らしに深刻な影響が及んでいます。

「ブルキナファソでは、井戸水を得るために72時間待ちの行列に並ぶ人もいます。水を手に入れることが生活のすべてとなっているのです。これ以上状況が悪化すれば、人や動物は喉の渇きにより命を落とす懸念があります」とユーセフは語ります。

紛争やその他暴力を伴う事態により、決まった放牧地間を移動する牧畜・遊牧の一形態である、伝統的な「移牧」のルートも破壊されています。モーリタニアの遊牧民は、かつては牧草地と水を求めてマリに移動していました。暴力下では、こうした伝統的なルートの利用ができなくなり、家畜などで生計手段を立てることが困難になります。

革新的なソリューションが求められる

特に懸念されるのは、サヘル全域で、情勢不安によりICRCなどの援助機関がアクセスできない地域で暮らす数十万の人々の状況です。「人々の間の緊張関係を悪化させるのではなく、むしろ緩和するために、必要とするすべての人に支援を届ける必要があります。人道支援組織はこうした環境下で安全かつ自由に活動できなければなりません」とユーセフは語ります。

赤十字・赤新月運動とともに、ICRCは最も弱い立場に置かれている人々を支援すべく、サヘル地域各地で活動の規模を拡大しています。また、気候変動や長引く紛争の影響に人々が適応し、レジリアンスを強化するための長期的な解決策も検討しています。

ICRCは、2022年5月12日にコートジボワール南東部にある同国最大の都市、アビジャンで開催される国連砂漠化対処条約第15回締約国会議(COP15)で、アフリカ開発銀行とともに、「アフリカにおける食料不安の連鎖を断ち切る方法」をテーマとしたサイドイベントを開催します。

「こうした危機に対応することは必要不可欠ですが、単に緊急事態と考えるだけでは、人々は援助に依存し、苦しみの連鎖が続きます」とユーセフは強調します。

「開発関係者や政府、人道支援組織が一丸となり、既存のシステムを強化し、人々の援助への依存を断ち切るためのツールを提供する、新しく革新的な解決策を打ち出さなければなりません」。