戦傷外科医が語る「南スーダンでの仕事と、心に残る患者」

南スーダン
2021.07.06

南スーダンで戦傷外科医として働くカリーナ・ギナセラ医師は、赤十字国際委員会(ICRC)の職員として、3年前から紛争下で負傷した患者の治療に携わっています。ICRCにとって最も重要な活動地の一つ、南スーダンで戦傷外科医として働くということは、大きな責任が伴うだけでなく、難題を突き付けられ、臨機応変な対応を現場で学び、全身全霊で仕事に取り組むことを意味します。アルゼンチン出身のギナセラ医師によると、運ばれてくる患者の4人に1人は、国内の武力紛争や戦闘行為により負傷した女性や子どもということです。

南スーダン(ICRC)―ICRCは南スーダンの2カ所で外科部門を支援しています。1つは東部ジョングレイ州のアコボ郡病院、もう1つは南部中央エクアトリア州のジュバ軍事病院です。これらの施設で銃創治療を受けている患者の4人に1人は女性や子どもです。

南スーダンで活躍する移動外科チームは、戦傷外科の特別訓練を受け、非常に高い技術を持ったプロ集団。カリーナ・ギナセラ医師をはじめ、多大なプレッシャーの中で、絶望的な状況に希望を生みだすために誠心誠意尽くして職務を全うしている。©ICRC

ICRCで働いてどのくらいになりますか?

3年経ちました。

なぜ人道組織で戦傷外科医として働こうと思ったのですか?

自分の持っている知識と技術を、最も必要としている人々のためにすべて投入したかったからです。アルゼンチン出身の一般的な外科医でしかなかった私は、戦闘で負傷した患者の手術をしたり、独特な治療ニーズに対応したりするうえで、多くのことを学ばなければなりませんでした。人道支援の現場で外科的処置を行うには、乗り越えなければならない壁があり、身も心も捧げる覚悟が必要なのです。

ギナセラ医師が治療の際に一番に心がけているのは、患者ができるだけ普通の暮らしに戻れるようにすること。©ICRC

南スーダンは初任地ですか?

いいえ、ICRCで最初に勤務したのは、ナイジェリア北東部の都市、マイドゥグリでした。緊急事態が多く、死傷者も膨大な数に上り、都市周辺で暮らす避難民の外科治療ニーズに対応するなど、忙しく過ごしていました。

その後、コンゴ民主共和国のゴマに赴任しました。そこでは、銃創や刺創の治療が主でした。現在は南スーダンの首都ジュバで、国内全土から訪れる負傷者の治療にあたっています。

銃創患者の4人に1人は、国内各地で、武力紛争や戦闘行為に関連して負傷した女性や子どもです。

2020年単年で、ICRCは438人の銃創患者を治療。患者の多くは医療サービスのない地域に住んでいるため、飛行機やヘリコプターで最寄りの病院まで運ぶ必要がある。©ICRC

紛争の被害を受けた国々で働く際の主な課題は何ですか?

負傷した患者の身体機能を最大限維持することです。多くの場合、負った傷により、障害を抱えて残りの人生を過ごさざるを得なくなるなど、患者の日常生活に影を落とします。そのため、負傷したことによる影響を軽減し、できる限り普通の生活を送れるようにすることが私の役目です。

独立以前から数十年にわたり紛争が続く南スーダンでは、医療へのアクセスが非常に限られています。国内2カ所でICRCが支援する外科部門に搬送される銃創患者の多くは、負傷してから3~4日経っているため、感染症や合併症のリスクが高くなっています。コミュニティーが容易に医療サービスにたどり着けるようになれば、そのようなことは起こりません。2020年は銃創患者438人を治療し、 2021年は1~3月の間だけで124人を治療しました。

チームメンバーと一緒に患者の治療にあたるギナセラ医師。©ICRC

治療を受けているのは、どのような状況にある人々ですか?

世界で一番新しい国である南スーダンでは、独立する前から続く数十年の戦争により、国内各地のコミュニティーで多くの人々が困難に直面しています。武力紛争や戦闘行為の連鎖が人道上にもたらす影響は、人々が自ら未来を切り開こうとするのを妨げ、制限します。何度も避難を余儀なくされ、農作物を育てることができません。財産は略奪され、家は焼き払われています。

多くの人が命を奪われ、負傷しています。飲み水を入手することも、医療や教育などの基本的なサービスを受けることもできない遠隔地に住んでいます。また、国内の女性や少女の約3人に2人が性暴力の被害にあっているとみられています。

一家が暮らしや生計を再建するためには、平和の維持が欠かせません。暴力行為や医療サービスへのアクセス欠如で、身内や大切な人を失う経験を繰り返させてはなりません。子どもを育て、人生を全うできるよう、安全と安定が求められているのです。

仕事に向かうときに何を考えていますか? 何にやりがいを見出し、どういったときに恐怖を感じますか?

病院に近づくと、患者の状態が良くなっていればいいな、と思います。患者が予期せず合併症にかかっていたり、状態が悪くなっていたりするのを出勤してから目の当たりにするのは怖いですね。でも、何よりも恐怖に感じるのは、いくら私の専門知識や患者を助けたいという思いをもって事にあたっても、患者を助けられないときです。

心に残る患者はいますか?

ええ、たくさんいます。外科医としていかがなものかと思われるかもしれませんが、そうした患者たちのことを考えると感傷的になってしまうことがあります。ここでは、一人に絞ってお話しますね。

ジャックは18歳で、私がゴマに滞在していたときに、胸をナイフで刺されて病院に運ばれてきました。到着したのは午前2時で、私たちは急いで手術室に運びました。開胸手術を急ぐ必要があり、状況は深刻でした。麻酔科医のナタリーと私はお互い信頼しあっていましたが、何が起こるかわからないという不安にさいなまれました。ジャックは右心室を損傷していたのです。私は医師としてのキャリアの中で、動いている心臓を縫合したのはそのときが初めてでした。

難しい手術でしたが、無事に終わりました。しかし、翌日になって、ナイフは両心室の間の壁を貫いていたこと、そのため肺水腫を起こしていたことがわかったのです。こうした状態になると、現場での治療には限界があります。時間をかけ、手を尽くして、やっとのことでジャックは回復へと向かいましたが、心疾患を抱えたまま退院し、投薬治療を継続せざるを得ませんでした。

ジャックと二人で撮った写真です。はにかみ屋さんで礼儀正しく、これまでに見たことのない素敵な笑顔の持ち主です。

自撮りをするジャックとギナセラ医師。「今まで会ってきた人のなかで最高の笑顔をもつ少年」と語るカリーナ。ジャックは、ナイフで胸を刺されて重症を負い、手術を受けた。©ICRC

現場で働くのに必要なスキルや能力とは何ですか?

――すべてです!強固な精神力と自立心に加えて、チームワークができること。そして、どんなときも忍耐力を失ってはいけません。ストレスの多い状況に対処し、数多の困難な手術をこなす能力は必須です。患者が亡くなったり、期待通りの結果が得られなかったりしても、すぐに立ち直ることができるようなしなやかな心も求められます。

愛する人たちを遠くに残して単身赴任し、仕事以外における自分の貢献を確約することも避けなければなりません。孤独と向き合いながら、自分が救った人たちからの感謝で心を満たし、他者を治癒するという生まれ持った宿命に感謝することです。

ICRCは、南スーダンがスーダンから独立する以前から、40年にわたり当該地域で活動してきました。世界100カ国に拠点を有するICRCにとって、活動規模では近年常にトップ3に入り、医療や水へのアクセス改善、食料・生活必需品の配付、生計の自立支援などを通して地元コミュニティーの緊急かつ長期的ニーズに応えています。また、武力紛争や戦闘行為に巻き込まれた人々の尊厳と保護を強化するかたわら、武装する組織や勢力と対話して国際人道法への理解と尊重を促しています。さらに、現地パートナーの南スーダン赤十字社には、現場の人道ニーズに応えられるよう人材育成を含めてサポートしています。1,000人以上のICRCスタッフが国内全土で活動し、2021年の活動予算は1億2,000万スイスフラン(約144.06億円)に上ります。武力紛争や戦闘行為の被害を受けたコミュニティーに対して緊急支援を提供し、住民の帰還やレジリエンスの強化、暮らしや生計の立て直しも支援しています。


【お知らせ】

ICRCは、7月9日の南スーダン独立10周年にあわせて、特集記事や最新の映像を公開し、SNS上でのキャンペーンも予定しています。

独立したとはいえ平和には程遠い状況にある「世界で一番新しい国」南スーダン。そこに暮らす人々は今どのような日常を送り、どんな思いでこの10周年を迎えようとしているのか。

私たちは、目に見える傷や痛みだけでなく、心に負った苦しみや悲しみにも耳目を傾けながら、地元コミュニティーと共に困難をも力強く生き抜く人々のレジリエンスにエールを送る機会にできればと願っています。