アルメニア:行方不明の夫との再会を待ちわびる妻
1カ月に及ぶ昏睡状態の末、医師が生命維持を諦めようとした瞬間に目を覚ましたタテフ・アリスタケシアン。アルメニアに住む彼女は、今でも行方不明の夫を待ち続けています。
2020年10月、タテフは同年の紛争激化の影響で夫が行方不明になったことを知ると、その不安感が引き起こした健康被害によって昏睡状態に陥りました。昏睡状態から回復した後は、日常の基本的な動作にさえ支障が出ました。しかし、その後は母親の助けを借りながら徐々に運動能力を回復させていきました。すると、タテフはひとつの思いに突き動かされるようになります。「夫が帰ってくるという連絡がくるかもしれない」という思いから、外出用の服を来たまま寝るようになりました。
タテフの願いも虚しく、夫からの一報がないまま、彼女は疲弊していきました。しかし、絶望し落ち込んだ顔を2人の子どもたちに見せたくはないという思いから、彼女は子どもたちから活力を得て自らを奮い立たせています。
現在も治療を受けているタテフは、体調が完全に回復する頃には夫が帰ってくると信じ、夫が花束を持って病院に見舞いに来る瞬間を夢見ています。
まるで、自分の半身がどこかに行ってしまって、まだ戻っていない感じがします。私と夫は両親こそ違いますが、とてもよく似ています。夫は、昏睡状態であった私と同じように紛争で死に直面していたはずです。私が昏睡状態から目覚めた今は、夫も家への帰路の途中にあると思います。
タテフ
ICRCは2020年秋の紛争激化により発生した行方不明者の家族のため、同行プログラム(Accompaniment programme)を実施しています。このプログラムの目的は、行方不明者の行末と居場所を明らかにし、家族が直面するあらゆる困難とニーズに対処することです。タテフによれば、心のケアのグループセッションにおいて人的交流を持つことによって、不安やうつ状態が大幅に緩和されたと言います。
紛争の被害を受けた地域では、1990年代、そして2020年から2022年にかけての紛争激化により、およそ5000人が行方不明になっています。行方不明者の一人ひとりには家族があり、失踪がもたらす不確定さや不透明さは苦悩や不安となって家族を苦しめています。