ウクライナ、ドンバス地方の境界線上で花屋を営む夫婦
前線からわずか数百メートルの場所で花を栽培し、6年以上にわたって生計を立ててきたヤシンスキー夫妻。爆撃が続き、電気がなく、お金もほとんどない極限状態の中で花の栽培方法を一から習得しました。
ウズベキスタン(ICRC)―ウクライナ南東部、ルハンスク州トロキズベンカには、素人ながら花屋を営んでいる夫婦がいます。自分たちで建てた温室には、現在、2,000本以上の植物が植えられています。
赤十字国際委員会(ICRC)からの助成金を得て、温室を増築し、土や機材を購入し、商売を拡大したのです。
「最近、菊の花が咲いたのよ」と妻のオクサナが語りながら、私たちを温室の中に招き入れてくれました。温室の中は、まるで植物園のようです。花のもつ不思議な力、その香り、豊かな色彩は、ここで暮らす人々がほぼ無一文であることや、未だ地下室で夜を過ごす日もあることを忘れさせてくれます。
菊の隣には、ベゴニアの鉢や、飾り鉢に入ったカーネーションやテンジクアオイ、マンデビラが並びます。スペースの3分の1を占めるのは、芽吹いたばかりの苗です。すでに数枚の若葉が芽吹きはじめたサクラソウは、3月には開花するでしょう。
「2015年に200本の苗から商売を始めました」と回想するのは、夫のコスティアンティン。「勤務先のある街が境界線の向こう側となってしまって仕事を失った私に、妻が花を育ててみないかと提案して、私も賛成したのです」。
現在、夫妻は空いている時間のほとんどを、温室での作業に費やしています。土作りや種まき、植え替えなどで、夜遅くまで作業することもよくあります。花を病気から守るために、ほとんどの植物に手作業で水やりをします。さらに、寒い季節になると、温室を暖めるためのかまどに2時間おきに薪を追加しなければなりません。そのため、コスティアンティンはほとんど寝ることができません。
「冬は、日中はほとんどいつも太陽の熱だけで足りていますが、日が暮れたら私の仕事が始まります。まるで赤ん坊の世話をしているようです。一晩中起きていて、温室内の温度に気を配っていなければならないんです。特に凍えるような寒さのときはね」とコスティアンティンは説明します。
夫妻は、村から70キロ余り離れた、現在の地域行政の中心地、セベロドネツクの市場で花を売っています。フェイスブックを利用してお客さんを見つけることもあります。
「すべての植物が出荷できるわけではありません。梱包の問題があるからです。ですが、テンジクアオイなどは、輸送中に傷まないようにするための梱包方法を学んで、オンラインで販売しようとしています」とオクサナは語ります。
オクサナとコスティアンティンは、引き続き1カ月余りにわたって、菊を販売する予定です。夫妻の菊は花持ちがよく、売れ行きは好調だということです。「花壇やベランダ、バルコニーに飾るために、あるいは単に贈り物として購入されます。自然が色あせて、寒くてもの悲しい季節には、菊の鉢植えは、小さな太陽の束のように見えます。私たちを元気づけて、幸せな気持ちにしてくれます」。