牧畜農家へ干ばつに備えるための資金を提供
エチオピア(ICRC)―赤十字国際委員会(ICRC)は、コミュニティーが干ばつによる壊滅的な被害から回復し、将来の干ばつにより良く備え、レジリエンスの強化を図るための長期的な取り組みを支援する「家畜保険プログラム」を導入しました。
この日も、暑い一日でした。エチオピア南部オロミア州にある小さな牧歌的な町で、ベデル・アブドゥラヒは自分の小屋の周りを歩き回って、辺りを点検していました。この土地は、つい最近までまるで砂漠のようでしたが、まばらな雨が降ったことから今は、草木が茂り、緑が広がっています。65歳の牛飼いであるアブドゥラヒにとって、牧草地は、家畜と自分の家族が生き延びるために不可欠なものです。ですが、3年前まで、アブドゥラヒが飼育する牛やラクダ、ヤギ、羊の命を支えていたこの牧草地は、干ばつにより、わずか数カ月のうちにほぼ失われました。
私は、60頭の牛と16頭のラクダに加えて、ヤギと羊を合わせて60頭飼っていました。
アブドゥラヒ
家畜は販売して収入を得るためのものであり、その肉や乳は食料源です。そのため、現在、オロミア州東部やその東に位置するソマリ州で干ばつが発生しているということは、アブドゥラヒの一家が生計を失い、貧困に追い込まれるということを意味しています。
「ほとんど何もかも失いました。もう、12頭の牛と9頭のラクダしか生き残っていないんです」と語るアブドゥラヒは、数カ月のうちに48頭の牛と7頭のラクダを失い、ただ茫然とするばかりです。
悲しいことに干ばつはその後も続き、アブドゥラヒは、2人の妻と25人の子ども、29人の孫の基本的なニーズを満たすために、生き残ったヤギや羊を売って食料を買うことを余儀なくされました。加えて、一家は、エチオピア政府やICRCからの人道支援に大きく依存してきました。
私は家族のためにできる限りのことをしていますが、長引く干ばつに、すべてが奪われていきます。
アブドゥラヒ
アブドゥラヒの一家は、生き残った家畜が失われることがないように、2度にわたりICRCから家畜の飼料を受け取りました。そのおかげで、厳しい時期を乗り越えることができました。
「干ばつを生き延びることができた羊やヤギが、今の私の主な収入源になっています。家族のための食料を買うときは、その一部を売らざるを得ないのですが」とアブドゥラヒは語ります。
オロミア州東部やソマリ州のコミュニティーは、紛争や民族間の抗争、イスラム勢力「アルシャバーブ」による襲撃、干ばつ、経済的苦境により、非常に弱い立場に追い込まれ、生き延びるために幾度も絶望的な選択を迫られてきました。
アブドゥラヒは、5年前にソマリ州にある故郷の村から逃れてきました。武装集団が村を襲撃し、家族が民族紛争の標的にされたからです。アブドゥラヒは大家族とともに、オロミア州の小さな町に安全な場所を見つけて暮らし始めましたが、ほどなく、気候変動の影響ですべてが干上がり、飼っていた家畜も失いました。
ICRCは、壊滅的な干ばつの影響を受けたコミュニティーがレジリエンスを高め、危機的な状況下で持ちこたえることができるよう支援するために、2020年からオロミア州メユムルケ地区で家畜保険プログラムを試験的に導入しています。インデックス型家畜保険(IBLI)として知られるこの取り組みは、オロミア州やソマリ州の雨の少ない低地で牧畜を行っている牧畜民が、干ばつによって家畜を失わないよう考案されました。
「この保険の目的は、干ばつの季節に牧畜民が家畜を失わないようにすることです。干ばつは、こうしたコミュニティーにおける家畜の主な死因です。ですが、牧畜民には、干ばつをどうにかしたり、干ばつの影響に対処することはできません」と語るのは、ICRCエチオピア代表部で、経済自立支援の担当者として、レジリエンス強化プログラムに携わるチャル・チャンドラです。「私たちの保険プログラムは、干ばつから家畜を守り、牧畜民にレジリエンスを提供します」。
長引く干ばつに加えて、治安状況の悪さも牧畜民が、これまでのように大規模な放牧を行うことや、牧草を求めて季節毎の移動ルートを利用することを制限しています。この保険は、定期的に衛星画像を撮影し、地域毎に入手できる牧草や飼料の量を測定することに加えて、その地域で入手できる牧草の量を過去のデータと比較して、異常がないかどうかを追跡します。その上で、牧草が深刻に不足することが予測されると、保険加入者に対して、保険金が支払われます。支払われた保険金は、深刻な干ばつが実際に発生した時に、保険の対象となる家畜の命を守るために必要な飼料や水、家畜用の薬をはじめとした物資、およびサービスを購入するために使用されます。
ICRCは、国際家畜研究所およびオロミア保険会社と提携し、この保険プログラムを試験的に実施しています。国際家畜研究所は、技術的なサポートを担当し、オロミア保険会社は保険商品のプロモーションと販売を担当しています。
「ICRCは、提携先に対して資金面や物流面での支援を実施している他、家畜の飼育者が保険商品を購入するための補助金を提供しています」とチャルは語ります。
2022年10月13日、ICRCがメユムルケ地区で提供している家畜保険プログラムを通じて、771人余りの牧畜民に対して、総額287万エチオピアブル(約5.4万米ドル、または約797.3万円)が支払われました。支払われたのは、半年前に保険がかけられた2,971頭の家畜に対する保険金です。支払金額は自動的に計算されることから、雨が降らない時に、個人が保険金の請求手続きをする必要はありません。
牧草や水が不足して家畜を失ってしまったので、生き残った家畜のうち6頭に保険をかけました。
アブドゥラヒ
「本当は、生き残った牛やラクダ全頭に保険をかけたいのですが、十分な資金がありません」とアブドゥラヒは続けます。
2018年からICRCは、紛争や干ばつの影響を受けたオロミア州やソマリ州の牧畜コミュニティーにおいて、家畜の健康の維持・回復を支援することで、持続可能な畜産を推進する「家畜支援プログラム」を実施しています。