国際赤十字がガザに野外病院を開設 ~5月9日から診療スタート~
赤十字国際委員会(以下、ICRC)と日本赤十字社を含む11の赤十字社(※)は、パレスチナ赤新月社(以下、PRCS)と連携し、この度、ガザ南部のラファに野外病院を開設し5月9日にオープンしました。
同病院は60床を有し、緊急外科、産科・婦人科、新生児・小児科、外来部門があり、一日当たり約200人の診療が可能です。PRCSが行う緊急医療活動を補完・支援し、イスラエルとガザで続く戦闘による膨大な医療ニーズに対応いたします。
※ アイスランド、オーストラリア、オーストリア、カナダ、スイス、中国(香港)、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、日本
野外病院について
今回の野外病院設置は、ICRCがガザで15年以上にわたって行ってきた医療支援の延長線上にあります。昨年10月に紛争が激化して以来、ICRCの外科チームを擁すヨーロピアンガザ病院をはじめ、ガザ域内の病院に医療物資を供給することで数千人の患者を支援してきました。
今回開設した野外病院では、各国の赤十字・赤新月社やICRC、現地のスタッフ約30人が勤務し、外科医、麻酔科医、看護師、こころのケア要員、技師、ロジスティック担当、事務担当などが従事しています。
ICRCや各国の赤十字社による支援状況は以下のとおりです。
- 野外病院の医療資機材等の維持管理(ICRC)
- 手術室およびリハビリテーションサービスのための資機材(日本赤十字社)
- 逆浸透膜浄水システム(オーストリア赤十字社)
- 外科用機材、麻酔機器と消耗品、消毒機材、検査室用消耗品、コールドチェーン(温度管理)用品、医療用臨床薬(カナダ赤十字社)
- スタッフ用寝床および逆浸透膜浄水システム(デンマーク赤十字社)
- 看護用機材、検査機材、ベースキャンプ資材、電気工具セット、貯水タンク、流し台(ドイツ赤十字社)
- 医療機器、事務機器、医薬品、テント、照明、トイレ設備、キッチン設備(ノルウェー赤十字社/当野外病院事業の調整役)
- X線装置、貯水タンク、流し台(フィンランド赤十字社)
- 職員の派遣(アイスランド赤十字社、オーストラリア赤十字社、カナダ赤十字社、スイス赤十字社、中国紅十字会香港支部、デンマーク赤十字社、ドイツ赤十字社、ノルウェー赤十字社、フィンランド赤十字社)
ガザの現状
現在、ガザでは39の病院のうち23の病院が機能不全に陥っており、稼働している病院も患者と安全な場所を求めて逃れてきた避難民であふれかえっています(世界保健機関(WHO)発表)。ガザの人びとは現在、緊急時に必要な医療を受けられずに苦しんでいます。医師や看護師は24時間態勢で働いており、既に限界を超えています。
現場の医療スタッフは、重傷を負って運ばれてくる人びとや、蔓延する可能性のある伝染性疾患、そして慢性疾患が放置されて合併症を引き起こしている患者の対応に追われています。また、四肢の切断も日常となり、避難民のコミュニティでは清潔で安全な水や衛生設備、食料が不足しているため、胃腸病や皮膚病が急速に広がっています。慢性疾患や深刻な疾病の患者よりも、重傷者の治療を優先せざるを得ない環境にあります。
国際赤十字の対応
昨年10月に敵対行為が激化し多くの犠牲者が出る中、PRCSのスタッフとボランティアは勇敢にガザの人びとへ緊急医療サービスを提供しています。残念ながら、PRCSのスタッフ17人が活動中に命を落とし、アル・アマル病院やアル・クッズ病院をはじめ、複数の救急医療サービス(EMS)センター等も攻撃を受け、25台の救急車が運行不能に陥りました。
ガザでは医療ニーズが日増しに高まっており、ICRCは紛争当事者に対して、国際人道法の下で医療施設を保護するよう改めて呼びかけます。患者が病院のベッドに横たわったまま攻撃の犠牲になることや、医療従事者が人命救助に勤しむ最中に命を落とすことがあってはなりません。すべての紛争当事者は医療施設および医療行為を尊重し、保護しなければならない、と国際人道法は定めています。
情勢不安が長期化している当該地域において、ICRCは1967年からイスラエルとパレスチナ被占領地に活動拠点を置き、人道支援に加えて、紛争当事者と国際人道法の遵守にまつわる対話を継続しています。また、日本赤十字社は、2015年から日赤中東地域代表部をレバノンの首都ベイルートに設置し、中東人道危機救援事業に取り組んでいます(中東人道危機救援事業:https://www.jrc.or.jp/international/results/middleeast_jrcs.html)。
イスラエルとガザにおける大規模な武力衝突から7カ月。ガザ地区で破壊的な攻撃が繰り返される一方で、イスラエルで捕らわれた人質もいまだ全員解放に至っていません。赤十字はいかなる時も公平、中立、独立を掲げ、戦闘に巻き込まれた民間人や負傷した人びとの支援と保護に力を尽くします。
日本赤十字社が提供した資機材について
日本赤十字社が提供した資機材は、手術室や手術台、麻酔器、心電図モニター、無影灯などの手術に必要な医療資機材114品目と、入院中のリハビリテーションに必要な歩行器、ギブス、頚椎カラーなど80品目です。
国際赤十字では、緊急事態・大規模災害発生時に備え、いつでも出動可能な専門家と、すぐに医療や給水衛生活動などを開始できる資機材をセットにした緊急対応ユニット(ERU:Emergency Response Unit)を準備し、各国赤十字・赤新月社が日頃から整備しています。今回の野外病院の設置は、手術・入院機能を備えた「病院ERU」を保有する日本、カナダ、ドイツ、ノルウェー、フィンランドの5つの赤十字社に加えて、「給水・衛生ERU」や「ベースキャンプERU」を保有するオーストリアとデンマークの赤十字社が互いに協力することで実現しました。