国連とICRC:宿願の人道支援“除外”と2023年の重要課題3つ

お知らせ
2022.12.21

武力紛争や気候変動による影響に、食料・エネルギー危機が相まって、世界各地で人道危機が加速しています。苦悩する人々を私たち赤十字国際委員会 (ICRC) が効果的に支援するためには、人道セクターの内と外でさまざまな組織と連携することが欠かせません。国連もその一つです。私たちは、国連から完全に独立した立場を保ちながらさまざまな場面で連携する一方で、これまで国連の会議の場では一貫して人道上の問題を提起してきました。

そうした訴えの一つに、国連の制裁措置からの人道支援除外があり、2022年の終わりに実現しました。私たちは、安保理決議が採択されたことを歓迎するかたわら、2023年に国際社会が注意を払うべき人道上の重要課題を3つ、国連総会で提示しました。

国連の制裁措置から「人道支援」を除外する決議採択

12月9日は、人道の歴史において重要な日となりました。テロリストへの資金供与を禁ずる現行の、そして将来にわたるすべての制裁措置から人道支援が除外されることになりました。法的拘束力のある国連安全保障理事会(安保理)決議が採択されたのです。国連の制裁措置は本来、人道支援にマイナスに働くことを意図していないものの、近年の歴史を振り返った時、一番助けを必要としている人たちを支援できないなど、ICRCの能力に明らかに悪影響を及ぼしています。

今回の決議が実施されれば、世界中の人道支援の現場にとっての大きな利益につながります。また、国連の制裁措置と、特に人道支援を規定する国際人道法に基づく主要な法的義務との両立が図られ、制裁措置が人道法に則って立案・実施されることが将来にわたり保証されるでしょう。

ICRCのミリアナ・スポリアリッチ総裁は、決議採択を受けて、「各国が今回の除外規定を国内法にも反映して、実施していくことを求めます」と期待を語りました。

今回の決議が実施されれば、世界中の人道支援の現場に大きな利益をもたらすだけでなく、紛争下にあるコミュニティーをICRCが支援する能力の向上につながると期待しています。具体的には、医療ケアの提供や、清潔な飲み水を汲むための井戸の掘削、紛争下で拘束された人々の訪問をはじめ、コミュニティーに対するサービスの向上につながるということです。

ミリアナ・スポリアリッチICRC総裁

現在、ICRCの活動規模が大きい国トップ10のうち、9カ国で国連の制裁措置が実施されています。また、残りの1カ国も、国や地域が定める制裁措置の影響を大きく受けています。そうした実情によって、ICRCやほかの多くの人道支援組織の対応能力に支障をきたしています。

特にテロ資金対策のための制裁措置(安保理決議1267号)に関しては、人道支援組織による活動を除外する重要規定が今回の決議では恒久的な規定とはならず、2年後に更新が必要となりました。武力紛争下にあり、制裁措置の影響を受ける地域で暮らす人々を取り残さないためには、更新を実施することが極めて重要です。

また、各国は自国や地域内の制裁措置を改正する際にも今回の安保理決議を考慮に入れ、同様に人道支援の除外規定を設けることを求めます。

私たちは、今回の決議が最も支援を必要とする人たちの暮らしを好転させると信じ、安保理のメンバーがこの重要な決議を採択したことに祝意を表します。

新しい年を見据え、重要な人道上の課題を3つ提示

その重要な決議が採択された3日前の12月6日、第77回国連総会本会議の議題「特別な経済支援を含む国連の人道及び災害救済支援の調整」において、米ニューヨークの国連本部にオブザーバーとして常駐するICRCのレティシア・クルトワ代表が、新年を前に、国際社会の関心を必要とする3つの重要課題を提示しました。

1.市街戦(人口密集地での爆発物の使用を含む)

現在、多くの民間人や人道支援組織が、市街戦の只中にいます。そうした中で今年11月、「人口密集地における爆発性兵器の使用から生じる人道上の被害からの、民間人の保護強化」に関する画期的な政治宣言が、80カ国の賛成により採択されました。この共同の成果は、数十万もの人々の運命を変える可能性を秘めています。また、民間人や生活に欠かせないサービスの保護、および人道法の尊重を強化するための大きな一歩です。各国が問題の深刻さを認識し、人口密集地での爆発性兵器の使用を制限または回避するなど、問題に対処するための具体的な行動をとることを約束したのは初めてのことです。今回の宣言は、交戦国に対して、これまでのように人口密集地で戦闘を続けることはできないという強力なメッセージです。こうした考え方や視点の転換こそが、極めて重要なのです。

しかし、私たちはまだ長い道のりのほんの入り口に立っているに過ぎません。この宣言への支持を広げ、効果的に実施するための協力が求められます。武力紛争時や武力紛争後の人々の苦しみを軽減するためには、野心的な約束を具体的な措置に転換することが必要です。

ICRCは、国際赤十字・赤新月運動(赤十字運動)のパートナーと緊密に連携し、水や衛生、電気、医療など人々の暮らしに不可欠なサービスに市街戦が及ぼす壊滅的かつ累積する影響を予防し、対応すべく引き続き取り組んでいきます。また、そうしたサービスの保護を謳う安保理決議2573号の履行に加えて、国際人道法を徹底的に順守するよう、すべての加盟国に対して呼びかけます。

2.サイバー空間における脅威

近年、サイバー攻撃により、原子力発電所や電力・水道設備など、国家の重要な民間インフラや人道支援組織に影響が及ぶ事態が複数発生しました。また、重要なインフラの一部を成す宇宙システムの停止や破壊も、人道支援従事者を含む民間人に広範な影響を及ぼす可能性があります。

さらに、武力紛争下では、民間人や民間企業が軍によるサイバー攻撃に携わるケースも増えていて、関与した民間人が危険にさらされています。これによって、国際人道法の大切な原則の一つである「区別の原則」が侵害されるリスクが生じています。こうした理由からICRCは、武力紛争下で国家または多国間レベルでサイバー攻撃に関する決定を下す際には、人道上の悪影響が及び得るリスクがあることを考慮するよう各国に求めます。

国家は、ICTや宇宙環境の特殊性を考慮した上で、民間人の保護にまつわる本質的な問題についての議論を深め、明確な立場を示すことが必要です。その際、民間人や民間インフラ、民間データの保護を徹底するために、国家が国際人道法の既存のルールをきちんと解釈し、適用することを私たちは求めます。また、現実世界同様にサイバー空間でも人道支援組織を保護することに加えて、ヘイトスピーチのような有害情報から民間人を保護するための措置をとらなければなりません。そこで私たちは、医療機関や赤十字運動のデジタル資産を識別し、サイバー攻撃から厳重に保護するためのデジタル標章を開発するプランを今年10月に公表しました。今後このプランをどう進めていくべきか、ICRCは赤十字運動のパートナーと緊密に連携しながら、国家などの関係者にも意見を求めていきます。

3.国際的武力紛争における捕虜や行方不明者に関する国際人道法の義務の遵守

国家同士が当事者である国際的武力紛争では、捕虜となった兵士および捕らわれた民間人が人道的な処遇を受け、家族と連絡を取る権利に加えて、そうした被拘束者の収容状況を確認し、家族間の通信を回復するためにICRCが定期的に訪問する権利が国際人道法で規定されています。同時に国家は、保護の対象である人々の所在も明らかにしなければなりません。特に、捕虜や傷病者、兵士の遺体など、自国の管理下に置かれている被保護者の情報を、自国に創設した国家情報局経由でICRC の中央追跡調査局と共有し、そこから母国や家族に伝える必要があります。

さらに、尊厳をもった遺体の取り扱いや身元確認が適切に行われるよう保証しなければなりません。こうした対応は、行方不明者の発生を防ぎ、家族や親族が大切な人の安否や所在を知る権利を満たすためにも極めて重要です。現行の国際的武力紛争を踏まえても、私たちはすべての国家に対して、政治面でのリーダーシップを発揮して対応を強化し、具体的かつ時宜を得た行動を通して、国際人道法の基本条項を尊重し、また尊重を徹底することを求めます。

クルトワICRC代表は、上記3つの課題の提示とともに、最前線で働く医療・人道支援従事者の活動を推進し、その身の安全を尊重し、人道的な活動が実施できるスペースを確保するようすべての紛争当事者に改めて呼びかけました。