赤十字の7原則:公平(Impartiality)
いかなる差別もせず、最も助けが必要な人を優先します
戦争、内紛、自然災害などの非常時に、国籍や人種、宗教上や政治的な思想および階級による差別をせずに、助けを必要とする人のニーズを分析して、緊急度の高い順から支援と保護を提供します。
人道支援を実現するため、私たちはあらゆる人々から受け入れられる必要があります。偏見や個人的感情、利害関係などによって、ある個人やグループに対して有利、または不利にすることはあってはなりません。
誰からも疑われることなく、確実に支援を届けるためには、公平であることが必須条件です。
同じく7原則の一つである「中立」と一見似ていますが、その違いは、「当事者のいずれの側にもつかない」という組織の姿勢をあらわす中立に対して、公平は、先入観なく判断・選択・分配・行動するという、支援を届ける際の”約束”です。
「公平」にまつわるエピソード①
2013年11月、フィリピン中部を直撃した台風ハイエンの被害者からのコメント
公平とは、屋根の下で寝られること
ジェリーとアイリーンは、じき赤ちゃんが生まれる予定の若い夫婦でした。しかし台風「ハイエン」が直撃し、二人は他の何千もの住民と同様、家を失い、苦境に立たされます。
そこで国際赤十字・赤新月運動は、彼らが新しく建設された家に入居できるよう手配。ジェリーとアイリーンは安心して眠れる場所を確保できたので、生活の再建に専念できるようになりました。
「公平」にまつわるエピソード②
赤十字国際委員会(ICRC)フィールド要員 栃林 昇昌
2014年5月から1年間、ナイジェリアで活動しました。国内では戦闘が何カ月も続き、安全を求めて多くが国内避難民となり、周辺のカメルーンやチャド、ニジェールに逃げ出す人も出てきています。
赤十字の7原則のなかで、現場での実践が難しいと感じたのは「公平」原則です。
メディアではボコ・ハラムが大きく取り上げられていますが、以前からナイジェリアで起きている問題に、コミュニティ間の武力衝突があります。例えば、主に農業を中心に生計を立てているコミュニティと遊牧生活を送る部族の争いです。遊牧民は大量の家畜を追いながら国内を移動していますが、彼らが農村を通りかかる時、彼らの牛やヤギが農作物を食べてしまいます。それに怒った農家が家畜を殺してしまう。重要な財産である牛やヤギを殺された遊牧民は、報復として武器で農家を襲撃してコミュニティ全体を焼打ちします。こうして人々は住む場所を失ってしまう。
ICRCは、緊急度合からまず避難民を支援します。しかし、遊牧民からするとそれはおもしろくない。ここに公平の原則が出てきます。私たちは、家畜にワクチンを接種するキャンペーンを行うなど、遊牧民にも手を差し伸べるのです。