核廃絶に向けた赤十字国際会議でのICRC副総裁によるスピーチ
4月24日から26日まで、長崎に35カ国の赤十字社・赤新月社と国際赤十字・赤新月社連盟、ICRCが集い、核兵器のない世界への道筋を話し合います。
今後4年間のロードマップは「長崎行動計画」と銘打たれ、今年11月にトルコで開催予定の赤十字代表者会議における決議を目指します。
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ICRC代表として出席した副総裁クリスティーヌ・ベーリが、オープニングセッションでスピーチを行いました。
核兵器の禁止及び廃絶にかかる国際赤十字・赤新月運動会議における赤十字国際委員会(ICRC)副総裁、クリスティーヌ・ベーリによるスピーチ
2017年4月24日、長崎
会場にお集まりの皆様
これから数週間、数ヶ月を迎える中で、ここにいる私たち全員が歴史の一幕を形成する機会、もっと言えば、責任を負うことになるでしょう。
私たちは今、核兵器の時代に終止符を打つ重要な転換点を印したとして、後世に記憶されるかどうかの瀬戸際に立っています。
三月下旬に米ニューヨークで、国連主導の下、核兵器禁止条約に向けた国家間交渉が始まりました。これは、国家の集合体がかつて踏み出したことのない一歩です。核兵器の禁止と廃絶を目指す国々が大多数を構成するに至り、そうした国々の明確な願いが反映されています。交渉が繰り返されることで機運が高まり、国際的な条約が今年の後半には現実のものとなる真のチャンスが到来しました。
さらに、ここにいる私たち全員も、そうした成果を上げるための重要な役割を担っています。
ここまで来るのに、国際赤十字・赤新月運動(以下、赤十字運動)の貢献は極めて重大でした。70年以上にわたる核兵器の恐ろしい影響について有力な証言をたて、地球規模で声を発してきました。
私たちは、実践と施策によってその妥当性を培っています。日本赤十字社とICRCが、死と破壊の悪夢を直接広島と長崎で目撃したのが1945年。死にかけ、負傷した人々に救いの手を差し伸べました。そして私たちは、今日に至るまで原爆による長期的な被害を目の当たりにしています。まさに、核兵器は人々を殺し続ける兵器です。投下から5年の間、死者の数は2倍から3倍に跳ね上がりました。72年が経過した今でも、日本の赤十字病院は、放射線にさらされてガンなどの病気を患った被爆者を何千人も治療しています。
赤十字運動の施策の観点から言えば、代表者会議と国際会議での決議を通して、核兵器と大量破壊兵器の禁止と廃絶を訴えてきた、という長い歴史があります。この中には、2011年の重要な決議も含まれています。核兵器を二度と使わないことと、法的拘束力のある国際協定から既に与えられている義務に則って、それら武器の禁止と廃絶に向けた交渉の道を辿ることを全ての国家に訴えました。これに追随する大切な一歩が、2013年11月に採択された行動計画で、各国赤十字・赤新月社が自分の国の政府や国民と共に行動を起こせるよう道筋立てています。
今日、核兵器をめぐる議論が、軍事ドクトリンや武力外交、法的な分析の枠を越えてさらにその先へ踏み込むことに少数の国家が反対しています。それらの国のほとんどが、赤十字運動の見解を共有していると思われます。私たちの見解とはすなわち、類まれな破壊力によって壊滅的な人道的影響を及ぼす核兵器がどんな形であれ使用された場合、国際人道法に見合うことは難しいのではないか、という重大な疑問。そして、核兵器の禁止と廃絶が人道上の義務である、という見方です。核兵器は、健康、環境、次世代へ影響を与え、何より、人類の生存をも長期にわたって脅かします。核兵器が存在し続けることに加えて、今日の複雑な治安情勢に鑑みて、意図的であれ偶発的であれ核兵器の使用は緊急の世界的懸案事項です。
核兵器による人道的被害に関しては近年、ノルウェー、メキシコ、オーストリアで計三回国際会議が開催されました。また、国連においては作業部会もありました。これらは、国家がどれだけ真剣にこの問題に向き合っているかを証明しています。2016年12月には、国連総会で歴史的な決議が採択され、現在行われている交渉会議への道を開きました。
私たちは今、重大な岐路に立っています。自分たちのことだけで満足している暇などありません。全ての国が会議に参加しているわけではないこと、禁止条約の発展にひたすら懐疑的な態度を示している国があることは想定内です。だからこそ、赤十字運動が、最高幹部を含めて声を上げ続ける責務を担っているのです。
次回の交渉会議は6月15日から7月7日までニューヨークで行われます。そこでは、未来の条約の様相を決定する話し合いが行われるでしょう。
私たちは、できるだけ多くの国家が交渉会議に参加するよう、強く訴えなければなりません。2011年の代表者会議の決議1に謳われているように、核兵器による壊滅的な人道的被害を認識した条約の成立を押し進めなければなりません。そしてその条約は、現存する国際人道法の原則やルールに忠実に基づいたものであるべきで、明確かつ付け入る隙のない禁止事項が盛り込まれなければなりません。その上で、可能な限り多くの国家による最終的な条約の遵守を、私たちは強く促すことになるでしょう。
同時に、核兵器に深く関与していながら交渉会議に参加しない国々に対して、既存の責務を果たすべく、安全保障政策の一環として核兵器の持つ役割を削減することを確約してもらえるよう、引き続き力を尽くさなければなりません。偶発的・意図的な使用のリスク軽減や、核兵器の数を減らすためのさらなる一歩を踏み出すことも促していきます。
禁止条約の採択により、すぐさま核兵器が消えるわけではないと認識することも重要です。ただ、採択されることで、核兵器の使用が不名誉なことであるという意識を強め、核リスク軽減への取り組みを促し、拡散への抑止力となることでしょう。
何より条約採択は、核兵器不拡散条約第6条で謳われている核軍縮へ向けた現行の取り組みを達成する確かな一歩です。化学・生物兵器と同様、完全かつ明確に禁止することが、核兵器廃絶への礎となります。
ご臨席の皆様、この会議は、地球規模で広がる、想像の域を超えた被害を防ぐために赤十字運動が貢献できるまたとない貴重な機会です。赤十字・赤新月社を率いる者として、あなた方は政府や国会議員、市民社会に明確に影響を及ぼすことのできる独特の立場にいます。この機会を単なる会議の場として捉えるのではなく、むしろ未来の世代のために、人類を危機から救う責務を果たす場と捉えようではありませんか。
ありがとうございました。
原文は、本部ウェブサイト(英語)をご覧ください。