捕虜って何?~国際人道法の観点から知っておきたいこと

国際人道法
2022.07.07

長い人類の歴史の中で、武力紛争下で敵の手に落ちた戦闘員の収容はよくあることです。そうした人々は捕虜と呼ばれ、その運命が敵側に委ねられていること、また、戦時に抱いた敵意や憎しみが向けられる対象であることから、常に虐待のリスクが伴います。幸い、捕虜の地位は時代とともに大きく向上しています。敵に捕まったら処刑されるか、強制労働をさせられるかのどちらかしかない、といったイメージはもはや遠い昔のこととなりました。

19世紀以降、捕虜の待遇改善に向けた取り組みが行われました。第一次世界大戦中の捕虜の保護に関して国家間で交わされたいくつかの協定を発展させ、1929年に「俘虜ノ待遇ニ関スル条約」が採択されました。これは、捕虜の保護に特化した初の多国間条約で、1949年の「ジュネーブ諸条約第三条約」の前身です。

第二次世界大戦中、この1929年に成立した条約に基づき、締約国に捕らえられた戦闘員の保護の有効性は証明されました。そして1949年、新しい第三条約はその保護を強化し、普遍化することを目指しました。第三条約は、捕虜の保護のための強固な法的枠組みを確立した、歴史上画期的な条約となりました。

今日では、世界のすべての国がジュネーブ第三条約の締約国です。ICRCは条約から特別な権限を与えられ、捕虜の尊厳と心身面での健康を守るために中心的役割を果たしています。

捕虜の定義とは?(矢印をクリック)

ほとんどの場合、捕虜とは敵の手に落ちた軍人を指します。捕虜の地位と待遇を受ける権利のある人の包括的なリストは、こちらをご覧ください(英語版のみ)

捕虜の地位は、国際的武力紛争(国家間の紛争)の場合にのみ、法的に認められています。非国際的武力紛争(「内戦」とも呼ばれる)においては、捕虜の地位は存在しません。捕虜の地位は、ジュネーブ諸条約の第三条約と第一追加議定書によって規定されています。

捕虜の保護に不可欠なジュネーブ諸条約第三条約第13条

(1)捕虜は常に人道的に待遇しなければならない。抑留国の不法の作為又は不作為で、抑留している捕虜を死に至らしめ、又はその健康に重大な危険を及ぼすものは、禁止し、且つ、この条約の重大な違反と認める。特に、捕虜に対しては、身体の切断又はあらゆる種類の医学的若しくは科学的実験で、その者の医療上正当と認められず、且つ、その者の利益のために行われるものでないものを行ってはならない。

(2)また、捕虜は、常に保護しなければならず、特に、暴行又は脅迫並びに侮辱及び公衆の好奇心から保護しなければならない。

(3)捕虜に対する報復措置は、禁止する。

邦訳出典:防衛省ウェブサイト https://www.mod.go.jp/j/presiding/treaty/geneva/geneva3.html

1981年6月6日、キプロス、ラルナカ空港で、ICRCは重傷のイラン人捕虜25人を本国へ送還。ICRCはイラン・イラク紛争の間も、捕虜の送還に積極的な役割を果たしていた。©Thierry Gassmann/ICRC

捕虜はどのような扱いを受ける権利があるの?(矢印をクリック)

捕虜を独房や他の形態の密室に収容してはなりません(刑罰及び懲戒罰に関する場合を除く)。しかし、戦場へ戻ることを防ぐために、収容施設に収容(抑留)することは可能です。展開されている敵対行為の終了後は、遅滞なく解放し、かつ、本国へ送還しなければなりません。

捕虜は、収容されている間、人道的かつ「人格と名誉を尊重」した扱いを受けなければなりません。捕虜を強制的に尋問することはできません。また、国際人道法は、捕虜収容にあたり、宿営や食料、被服、衛生、医療などに関する最低条件を定めています。

捕虜は、侮辱を受けたり、世間の好奇の目にさらされたりしてはなりません。捕虜の尊厳と安全を守るため、捕虜の画像や個人情報を公表してはなりません。詳しくは、こちらをご覧ください(英語版のみ)。

捕虜収容施設は、戦闘地域から離れた安全な場所に設置されなければなりません。捕虜は、その国籍や、言語・習慣に応じて、また、同じ軍隊に属する他の捕虜と引き離すことなく抑留されなければなりません。施設環境は、収容国の軍隊の宿営と同等の質でなければなりません。

捕虜は、外の世界、特に、家族や友人と関係を維持することができなければなりません。捕虜は、手紙やメッセージによって連絡をとり、また、食料や被服、または医薬品の入った個人または集団宛の荷物を受け取る権利があります。

捕虜はまた、「通知票」を送る権利も持っています。これは、家族宛と、ICRCの中央追跡調査局宛に送られ、捕虜の安否や所在を伝えるものです。

捕虜は十分な医療を受けなければなりません。重傷を負った捕虜や病気の捕虜は、すぐに送還しなければなりません。また、医療行為を必要とする場合は、中立国に身を置くことができます。

捕虜の処遇については、ジュネーブ第三条約、特に12条〜108条を参照ください。

捕虜はどのくらいの期間拘束されるの?(矢印をクリック)

それは場合によります。一般的なルールとして、捕虜は、展開中の敵対行為が終了した際、遅滞なく解放され、本国へ送還されなければなりません。しかし、捕虜の健康状態や解放にまつわる方針、国家間の特別協定などの要因により、早期に解放される場合もあります。一方で、例えば刑罰に服しているなど、特定の条件下にある捕虜は、敵対行為の継続期間よりも長く収容されるかもしれません。紛争終結後に捕まった場合でも、捕虜は最終的な解放や本国送還まで、その地位やジュネーブ第三条約による保護を失うことはありません。

捕虜は、人種や宗教、国籍または政治的見解を理由として、迫害や拷問を受ける、あるいは死に至らしめられる恐れがある場合、それらを理由に本国送還を拒否できます。つまり、ノン・ルフールマンの原則の適用対象となります。

詳しくは、ジュネーブ第三条約の21、109、110、111、115、118~119条を参照。

捕虜が裁判で起訴されることはあるの?(矢印をクリック)

場合によります。戦闘員(基本的に、衛生要員や宗教要員を除く軍隊構成員)は敵対行為に参加する権利を持っています。よって、戦闘員が敵の手中にある(すなわち捕虜となった)場合、国家のために戦ったという理由だけで訴追されることはありません。一方、国際人道法違反、特に戦争犯罪に相当する重大な違反については、訴追を免れることはできません。

犯罪を問われて起訴された場合、捕虜は適正な手続きと公正な裁判を受ける権利を有します。最終的な解放と本国送還まで、捕虜としての地位を失うことなく、第三条約の保護を受け続けることができます。

2002年8月、279人のエチオピア人捕虜が、ICRCの支援のもと母国に帰還。©François de Sury/ICRC

捕虜の保護におけるICRCの役割とは?(矢印をクリック)

ジュネーブ諸条約の第三条約は、捕虜がいる可能性のある場所に行き、個別に面談する権利をICRCに保証しています。ICRCは、捕虜の処遇と収容条件が国際人道法に見合っているかを確認するために収容施設を訪問します。

第三条約は、ICRC中央追跡調査局に、捕虜の安否と所在に関する情報を収集・集中管理し、生死を問わず、当事者と家族に伝達するという特別な役割を与えています。敵の手に落ちた捕虜の所在を明らかにし、家族に尊厳ある方法で情報を提供することにより、行方不明者の防止にも役立っています。

ICRCと収容施設の訪問の詳細はこちら(英語版のみ)

ICRC中央追跡調査局の役割については、こちらの二つ(英語版のみ)をご覧ください。

https://www.icrc.org/en/document/central-tracing-agency-reuniting-families-since-1870

https://blogs.icrc.org/law-and-policy/2022/04/11/separated-missing-dead-international-armed-conflicts/

いつからICRCは捕虜の保護に関わるようになったの?(矢印をクリック)

1870年7月18日、普仏戦争開戦のわずか3日後に、バーゼル・エージェンシーと呼ばれる担当部局が創設され、戦時下で捕虜の情報提供や救護を行う役割を担っていました。この種の問題を扱う、初の専門部局です。その後20世紀前半は、主要な紛争が勃発する都度、ICRCが同局の機能を復活させていました。その任務の中心は、一貫して捕虜の保護と救済であり、後に民間人の被拘束者や避難民も含まれるようになりました。例えば、第一次・第二次世界大戦中は、捕虜の移動記録や、行方不明者の調査、収容所への手紙や救援物資の配送などを行いました。

ICRCは、イラン・イラク戦争やエチオピア・エリトリア戦争などの終結時に、捕虜の大規模な送還に携わってきています。

国際的武力紛争が勃発し、自らの命運を交戦国に委ねられた人々が新たに出てきた場合、ジュネーブ諸条約は持てる限りの効力を存分に発揮します。人道に基づく処遇を紛争当事者に求め、殺人や拷問、身体切除、その他多くの虐待を国際犯罪とすることにより、残虐行為を防ぐ砦となり、戦争とはいえやりたい放題は許されない、という概念を私たちに再認識させてくれます。

ラミン・マーナッド ICRC上級法律顧問

こちらのアニメ動画も併せてご覧ください(日本語):ICRCの収容所訪問はなぜ必要とされているの?その内容とは?


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