リポート:核兵器禁止条約発効後の初の締約国会議~日本の大学生2名をユース代表として派遣

オーストリア
2022.07.21

6月21-23日に開催された核兵器禁止条約第一回締約国会議。発表の際にスクリーンに映し出されるICRCユース代表の奥野(左)と髙垣(右) 🄫ICRC

2022年6月21-23日にオーストリアの首都ウィーンで開催された、核兵器禁止条約の第一回締約国会議。ICRC駐日代表部は、この歴史的なイベントに、広島出身の日本人大学生2名、髙垣慶太と奥野華子をICRCユース代表として派遣しました。二人は、同会議に先駆けて開催された、市民社会やオーストリア政府によるイベントにも参加。被ばく者の曽祖父を持つ髙垣は被害者の目線から、また、核兵器使用や実験による気候へのリスクについては奥野が、現地でそれぞれ力強いメッセージを発信しました。

締約国会議では、開幕宣言がされた直後にペーター・マウラーICRC総裁が登壇。「核兵器禁止条約が発効した今、核兵器の包括的な禁止は、国際社会全体が負う重大な責務で、廃絶に向けた重要なステップです」としたうえで、「その実現までは、効果的なリスク軽減策を緊急に講じる必要があります」と、核保有国とその同盟国が最優先に果たすべき義務を訴えました。

マウラー総裁の声明全文はこちら
https://jp.icrc.org/information/peter-maurer-continued-existence-nuclear-weapons-one-biggest-threats-humanity/

また、会議の中でICRCは、条約の履行と今回の会議の成果を見据えて、締約国に対する具体的な勧告を盛り込んだ文書を提出。提出した複数の勧告文書のうち、2日目の議題「被害者支援、環境修復と国際協力・援助」には、髙垣と奥野がそれぞれ事前に用意していた文言も綴られました。その該当箇所を口頭で発表した二人は、議場で堂々と国際社会の結束を訴えました。

広島や長崎の被ばく者の多くは、差別や偏見、社会的に不利益をこうむることを恐れ、家族のためにも、自身が被ばく者であることを隠してきました。こうした事実を踏まえて、被ばく者への十分な支援が、ニーズ分析や科学的な根拠によって提供されるべきです。

ICRCユース代表 髙垣慶太

限定的な核使用であっても、気候変動をもたらし、長年にわたり食料生産を停滞させます。核兵器と気候変動の危機という負の遺産を次世代に残さないためにも、環境保護と核廃絶に取り組んでいる人たちが連携して声をあげる必要があります。

ICRCユース代表 奥野華子

ICRCの勧告文書を読み上げる髙垣と奥野 🄫ICRC

さらに、本会議場の隣で開催されたICRCイベント「人類の利益のために~核兵器禁止条約発効後の赤十字の役割」には髙垣が登壇。核兵器の非人道性が社会全体や人体に与える影響や、ユースが日本で議論をけん引していく重要性について語りました。

奥野は、オーストリア赤十字社主催のウェビナー「過去から未来へ~条約発効までの貢献と、今後期待される役割」で、各国の赤十字パートナーに対して自身の問題意識を共有。広島平和記念公園でのツアーガイドとしての経験や、同時期に聞いたグレタ・トゥーンベリさんのスピーチをきっかけに気候変動のムーブメントを立ち上げた、と語り、一人一人の力が最大化されるようにアクションを起こす必要性を訴えました。

オーストリア赤十字社で開催されたウェビナーに登壇する奥野 🄫ICRC

本会議場の外では人道外交も。平和首長会議のブースで、ICRC軍事兵器部門責任者が広島・長崎両市長と会談 🄫ICRC

会期中は日本メディアの取材対応にも大忙し 🄫ICRC

会議参加を終えた髙垣と奥野のコメントは、本記事文末をご覧ください

条約が発効して初の締約国会議では、核兵器が二度と使用されないためには廃絶するしかない、として「ウィーン宣言」が採択され、廃絶への具体的なプロセスは「ウィーン行動計画」として提示されました。同計画には、締約国を増やすことに加えて、被ばく者へのさらなる支援や援助についても盛り込まれています。

1945年に、当時のICRC駐日代表マルセル・ジュノーが医薬品を携えて広島に入り、その惨状を目の当たりにして以降、ICRCは国際人道法の守護者として、抑止力などの政治的議論とは一線を画し、純粋に人道的観点から核兵器の使用禁止や廃絶を訴えてきました。特に、2010年に発表した、当時のICRC総裁による声明は、核兵器がもたらす受け入れ難い人道上の被害に言及し、その脅威を排除するために早急に行動を起こすことを国際社会に要求。条約成立に向けた議論に拍車をかけました。

2010年の声明全文は、赤十字国際レビュー内の「核兵器の時代に終止符を」をご覧ください。

ICRCは、赤十字運動のパートナーとともに、核兵器なき世界の実現というゴールに向けて、今後も締約国の増加など核兵器禁止条約の発展や強化に力を尽くし、核軍縮を促すために全力で取り組んでいきます。

会議に参加して~ICRCユース代表のコメント

第一回締約国会議に出席した“意義”

(髙垣)
私には、広島・長崎で原爆救護に携わった二人の曽祖父がいます。直接二人に話を聞くことは叶いませんでしたが、爆心地付近での治療活動は困難を極め、医療物資の不足、患者があまりにも多いという事態から命の選別がなされる、治療を待つ人々が次々に息絶えていく様子を目の当たりにしたと言います。今回、彼らの記憶を受け継ぐ若者として、核兵器使用の結末という“現実”がいかに恐ろしく、また人道上許容できないものであるかというメッセージを、一連の行事を通じて届けることができたように思います。

また、被ばく者であるはずの人々が被ばく者として認められないという被害者の間に生じる格差、そしてそれが77年を経た現在もなお続いていることもまた、核兵器の非人道性と言えるのではないか。そうした問題の提起を行いました。社会的差別や偏見から逃れるため、被ばく者であることを隠す人々、また産まれた子どもや孫への精神的、社会的な悪影響を心配し、被ばくした事実を伝えない人々が少なくありません。

こうした二つの社会的な非人道性を提起し、人々のニーズや科学的根拠に基づいた支援、個人情報の保護などに配慮した支援が必要であると訴えました。

(奥野)
核兵器が使用されるかもしれないというリスクが高まっている一方で、核兵器廃絶に向けた希望である核兵器禁止条約の第一回締約国会議に参加することで、核兵器廃絶に向けてさらに進んでいけると思い、参加しました。

一連のイベント参加から得た“気付き”

(髙垣)
最も大きな気付きは、核の被害を受けた人や地域の経験、記憶をさらに認識していかなくてはならないという点です。今回、ウィーンには広島・長崎の被ばく者をはじめ世界各地から核被害者が集まり、それぞれの経験を参加者に共有しました。近年、核兵器禁止条約を含む核軍縮の議論において、国際社会の核被害者の声を重要視する姿勢は年々高まっていると感じられます。しかし一方で、今回の会議や開催されたイベントで見受けられた懸念は、そうした人々の声を聞くことに「慣れてしまっていないか」ということです。例えば今回、被ばく者の方々が証言する場所にはどれくらいの人々が集まったかというと、環境やジェンダーと結びつける議論の場に比べて少なかったように思います。

今年、広島・長崎の被ばく者の平均年齢は84歳を超え、12万人を下回りました。直接核兵器の被害を受けた人々の声を聞けなくなる時代が目前に迫る中、私たちは、被害を知るとはどういうことか、今、最も何をしなくてはならないか、改めて考え、行動していかなくてはならないと感じています。

広島平和記念資料館の近くにあるマルセル・ジュノー博士の記念碑の裏には「無数の叫びがあなたたちの助けを求めている」とあります。この「無数の叫び」こそ、世界中の被ばく者たちの声なのかもしれません。そして、その声に向き合い行動していくことの重要性を、ジュノー博士は静かに、現代を生きる私たちに訴えかけてくれているのではないでしょうか。

(奥野)
これまで核兵器と気候変動に強いつながりを感じ、個人として活動してきました。ただ、日本ではそのつながりを語る人はまだまだ少ない印象です。しかし、今回参加したどの行事でも当たり前のように核兵器と気候変動のつながりについて話されていました。特に印象的だったのは「気候変動が深刻化しているのだから、兵器を作るためにお金を使うのではなく、気候変動を止めるためや被害を受けたりしている人への援助にそのお金を使うべきだ」と言っていた同世代のアクティビストの声です。

同時に、過去にしっかりと向き合い、今の核の問題について考えることの重要性を感じました。

日本では「核兵器」と聞くと「原爆、ヒロシマ、ナガサキ」を思い浮かべる人がほとんどだと思いますが、今回の行事では、世界の核被害者、ジェンダー、気候変動などあらゆる問題と核兵器を一緒に考えている人が多かった印象を受けました。過去にしっかりと向き合いながら、同時に、今の核の問題について考えることの重要性も実感しました。

また、核兵器禁止条約は各国・NGO、人道組織、市民、それぞれのセクターがそれぞれ重要でパワーがあると感じました。今回の締約国会議に参加したすべての人、そしてその場にはいなかったけれど締約国会議に関心を向けていた人が連携し合うことで、核兵器廃絶に向けて進んでいけると感じました。

今後の“抱負”

(髙垣)
世界においては、広島・長崎の被ばく者の経験をどのように伝えていくことができるのか模索していくこと。そして日本では、世界の核被害者「グローバルヒバクシャ」への認知を広げていくことが重要ではないかと考えています。会議や関連行事でつながった新たな仲間や日本の仲間たちと協力し、できることを実践に移していきたいという想いです。

(奥野)
核兵器禁止条約が発効し、ついに第一回締約国会議が行われましたが、約1万3000発の核兵器が存在すると言われていたり、世界各地で紛争が起きていたり、核兵器が使用されるリスクが高まっていたりとまだまだ核兵器廃絶への道は続きます。今回の締約国会議で感じたことやつながりを活かし、自分にできることを引き続き一つ一つやっていこうと思いました。

こちらも併せてご覧ください。

核兵器禁止条約発効 特設ページ:https://jp.icrc.org/information/tpnw/

捕虜、人道回廊、核兵器…国際人道法の守護者・番人としてのICRCの役割:https://jp.icrc.org/information/international-humanitarian-law-faq/