「アクティブ・エイジング・クラブ」~武力紛争下のドンバスでシニアたちの積極的な社会参加を支援
![](http://jp.icrc.org/wp-content/uploads/2021/12/donbas-active-aging-education-7_1.jpg)
ウクライナ東部、ルハンスク州トロキズベンカ村の人里離れた場所にある小さな郵便局は、数年にわたり放置されていましたが、地元の高齢者たちによって修繕され、現在は「アクティブ・エイジング・クラブ」の拠点として使われています。このクラブのメンバーは週に数回集まり、メールの送り方を学んだり、映画を観たり、孫たちと一緒にかぎ針編みをしたりしています。今回、赤十字国際委員会(ICRC)のスタッフがそのクラブを訪れました。
ウクライナ(ICRC)―トロキズベンカ村は、ウクライナ紛争の戦線上に位置します。現在、この村は、紛争が勃発して最初の数年間に比べれば平和になりましたが、それでも未だに砲撃に見舞われることがあります。
アクティブ・エイジング・クラブのメンバーであるテチアナさんが、「ここは、今は静かです」と語ると、同じ村人のマリアさんは、「静かだけど、空気は張り詰めています。恐怖が常につきまとっているのです」と付け加えます。
紛争以前は、村と隣町を結ぶバスが運行していたため、誰もが学習や雇用、質の高いレクリエーションの機会を得ることができました。
「紛争前は、みんな仕事に就いていて、年金の受給開始年齢を過ぎても働き続けていました」とテチアナは振り返ります。「ですが、今は何もかもなくなってしまって、みんな家にいます。携帯の電話ネットワークも、食料品店も、もう何一つありません……」。
トロキズベンカ村が物理的に孤立していたこと、戦線に近いことから、トロキズベンカ村の住民はさまざまな活動を力を合わせて行うようになりました。それがやがてアクティブ・エイジング・クラブとして知られるようになったのです。トロキズベンカの高齢者たちが、人里離れた場所にある廃れた小さな郵便局に目をつけて、修繕を行って、クラブを設立したのがきっかけです。50人の正会員がいて、テチアナとマリアもそのメンバーです。
クラブの活動紹介
クラブの発足の原動力となったのは、積極的に社会活動を続けるだけでなく、学習や成長の機会も得たいというシニアたちの意欲です。地元の当局が元郵便局だった建物をクラブ活動を行うための施設として利用することを許可して、ICRCが建設資材を提供すると、クラブメンバーがすべて自分たちで修繕を行いました。
それ以来、メンバーはここを拠点に、応急処置や地雷安全、心のケアのほか、裁縫や編み物、パン作り、絵画などのトレーニングセッションやワークショップを開催しています。メンバーの手作りの品のほとんどは、ウクライナ赤十字社が運営する訪問看護プログラムを通じて、寝たきりの人に寄贈されます。また、手作りの品の中でもベッドリネンなどは、誕生日を初め、お祝い事の折に地元の人々にプレゼントされます。
「私たちは、高齢者の社会的地位を、受け身な援助の受け手ではなくて、村でイベントを開催するような積極的な社会の一員に変えるためのアプローチを行っています。そのためには、高齢者が自ら率先して活動を行うことができるような交流スペースを作る必要があるのです」とウクライナ赤十字社の職員であるゾイア・ポホリラは語ります。そうしたスペースで、ウクライナ赤十字社のボランティアが、クラブメンバーを対象とした研修を行っています。
赤十字社のボランティアは、トロキズベンカの高齢者にスマートフォンやコンピュータの使い方も教えています。ドンバスの多くの家族が戦線を挟んで離ればなれに住んでいるため、メッセージアプリが祖母や祖父が子どもや孫に連絡を取るための唯一の手段であることが多いからです。また、デジタルスキルを新たに身につけることは、何らかの雇用機会を求めている人々にも役立ちます。
「こうした活動を行うことで、トロキズベンカ村の住民はより変化に富んだ前向きな暮らしができるようになることに加え、能力や自信を高めることができます。これこそが、東ウクライナにおけるアクティブ・エイジング・クラブの最大の目的である『軍事境界線の近くで暮らす人々が自ら社会活動を行い、武力紛争下で直面する問題の解決に向けて取り組む』ための第一歩です」と説明するのは、ICRCの教育アクセスを担当するイリナ・アレクシーヴァです。
また、ICRCは施設の修繕するための費用に加え、パソコンやミシン、ヒーター、スポーツ用品、図画工作の材料など、必要な機材や備品を購入するための資金の援助を行いました。
村人全員が利用できる多目的スペースであるこのクラブは、子どもたちも利用します。パントマイムをしたり、劇を演じたり、クリスマスやイースターのイベントを大人と一緒に企画したりします。そうしたイベントには、村人が総出で参加します。
トロキズベンカのように孤立していて、治安情勢が不安定な村で、地元の当局がこうした取り組みを支援することは極めて困難です。ICRCは、戦線の付近で暮らす人々にさまざまな学習や成長の機会を提供することに加えて、そうした活動を長期的、持続的に発展させている数少ない組織のひとつです。
アクティブ・エイジング・クラブはこれまでに、ルハンスクおよびドネツク地域にあるトロキズベンカ、クラキフカ、スピバキフカなど武力紛争下にある孤立した3つの村で発足しました。そして現在、その会員数は100人以上に上ります。