世界で飢餓が深刻化:紛争下にある数百万人に迫る危機

2022.07.15

©ICRC

ジュネーブ(ICRC)―ウクライナ紛争は、世界中に食料危機やエネルギー危機、そして、金融不安をもたらしています。特に、アフリカと中東の一部地域は、極度の貧困や不平等、食料不足により追い込まれています。今後数カ月のうちに、数億人が深刻な飢餓に陥る恐れがあります。

ウクライナ紛争は、燃料や肥料、食料の価格の高騰を招いています。家計は圧迫され、人々は日々究極の選択を迫られています。人道支援従事者の度重なる呼びかけにもかかわらず、ロシアやウクライナからの穀物の輸入依存度の高い地域で暮らす人々が、ウクライナ紛争により陥った苦境を軽減できるような大規模な措置は、未だ講じられていません。

ウクライナ紛争により食料危機に陥る国々

世界の食料安全保障事情は急速に悪化し、事態は切迫しています。アフリカと中東の一部地域は、特に深刻な状況に陥っています。武力紛争や情勢不安、気候変動、コロナ禍の二次的影響が重なり、危機に耐え、回復する力が弱まっていたところにウクライナ紛争が追い打ちをかけ、危機が深まったのです。

ロバート・マルディーニ ICRC事務局長

事態は急を要します。行動するための時間はあまり残されてはいません。共に力を合わせて取り組まなければ、取り返しのつかない人道上の危機に陥り、想像を絶する人的犠牲が払われる可能性があります。

シリアやイエメン、マリ、エチオピア、ソマリア、アフガニスタンなど、ICRCが最大規模の活動を展開している国々をはじめ、数十年にわたる紛争や情勢不安などに見舞われ、すでに人道危機に直面している国ほど、今回のウクライナ危機による影響を受けています。

食料危機の影響が特に深刻なのは、子どもたちです。悲しいことに、ここ数週間で、栄養不足の子どもたちの写真や映像を目にする機会が増えることでしょう。例えば、ソマリアでは、ICRCが運営する医療施設に収容された、合併症を伴う重度の急性栄養失調に陥った5歳未満の子どもの数が、前年同時期と比較して、5割近く増加しています。食料価格の上昇により、多くの家庭が学費を払えなくなり、子どもたちは学校を中退せざるを得なくなっています。

なぜウクライナ紛争により、世界が食料危機に陥るの?

ウクライナからの輸出の低迷は、アフリカで穀物価格の高騰を招き、紛争と気候変動の影響による二重苦に追い打ちをかけています。その背景には、ロシアとウクライナの両国が、世界の小麦や穀物の生産量の4分の1を占める一方で、アフリカは小麦の85%余りを輸入に頼っているという事情があります。例えば、ソマリアは、小麦の9割超をロシアとウクライナから調達しています。

世界的な価格の高騰の影響を特に受けているのは、農業従事者や、社会保障が脆弱な紛争地域で暮らす人々など、最も危機に対処する力の乏しい人々です。今年はさらに、そうした人々が属するコミュニティーを干ばつが襲い、何百万頭もの家畜が失われました。7年にわたり内戦が続いたイエメンでは、人口の5割超に当たる1,600万人以上が、深刻な食料不足に陥っています。

世界の食料危機を緩和するために求められること

食料不足は、複雑な問題です。しかし、有意義な措置をとることはできます。私たちは、主に3つの行動をとるよう呼びかけます。

1つ目に、紛争下では、紛争当事者は、自らの支配下にある地域で暮らす民間人の基本的なニーズを満たすための一義的な責任を負っています。人々の生存に不可欠な農作物や家畜、水利施設、医療施設を保護しなければなりません。迅速に妨げられることなく人道支援が届くようにすることも、責任の一つです。

2つ目に、食料危機に対応するための資金を直ちに増やし、人命を救わなければなりません。一方で、来るべき危機に備え、リスク管理や回復力の強化を行うなど、先を見据えて手を打つことも重要です。紛争下にある人々に確実に支援を届けることに加えて、気候に配慮した農業や牧畜を支援する必要があります。

3つ目に、大規模なニーズが、短期、中期、長期的に満たされるよう、人道組織や開発機関、金融機関、そして、地元や地域の当局など、あらゆる関係者の能力を活用する必要があります。

ICRCから国際社会への要請

私たちは、ドナー国や、赤十字運動などのパートナーからの、ウクライナに関連した寛大な支援を非常に歓迎しています。一方で、懸念されるのは、私たちが世界各地で活動するための資金は、全体としては縮小していることです。現在、幾つかの重要な活動領域で、資金不足が深刻化しています。食料支援事業をはじめ、武力紛争やその他暴力事態下にある人々の支援に影響が生じる恐れがあります。

また、国家は、紛争下で制裁が課された場合、人道支援従事者の活動に悪影響が及びうることを再認識してほしいと思います。制裁の立案・実施に際しては、人道支援を対象外とすることを求めます。

ICRCは、こうした緊急事態下で、力を尽くして対応を続けて行きます。一方で、人道支援従事者だけでは、事態に対処しきれません。国際社会が力を合わせて、状況に応じた取り組みを強化して行く必要があります。あまりにも多くの人々が苦しんでいます。あまりにも多くの命が危険にさらされています。その責任は、私たち全員が負っています。

ロバート・マルディーニ ICRC事務局長

数値でみる、世界の食料危機

世界の食料危機を数値でみたとき、ICRCは、特に以下の点を懸念しています。

•  アフリカでは、全人口の4分の1に当たる、推定3億4,600万という驚異的な数の人々が、深刻な食料不足に直面している。(国連食糧農業機関調べ)

•  スーダンでは1,000万人近く、南スーダンでは700万人余りが深刻な食料不足に陥っている。

•  シリアでは、ウクライナ紛争が激化する前から、国民の9割がすでに貧困状態にあり、3分の2が人道支援に依存し、55%が食料不足に陥っていた。

•  サヘル地域の国々は、ここ数十年で最も深刻な干ばつに見舞われている。ニジェールとモーリタニアでは、過去5年平均と比較して、食料の生産量が4割も減少している。

•  アフガニスタンでは、小麦粉の価格上昇率は、前年比47%、食用油は37%、リン酸二アンモニウム肥料は91%、ディーゼル燃料は93%。同国は、ウクライナ紛争により輸出規制がかかっている隣国のカザフスタンから、最も多く小麦を輸入している。

•  すでに8億人を超えている、世界の飢餓人口は、2022年にさらに4,700万人増加する見通し。(世界食料計画調べ)