現場で働く日本人職員:前村明佳子(フィールド要員)インタビュー
前村明佳子(まえむら あかね)
大学卒業後、フランスおよび日本で修士号を取得。民間シンクタンクや国連ボランティアを経て、2014年よりICRCのデレゲート(フィールド要員)として活動。同年11月にコートジボワールに派遣。1年後の2015年11月からセネガルで勤務。2017年1月に帰国。
-ICRCで働くようになったきっかけは?
赤十字の存在を知るきっかけになったのは、大学の国際法の講義でジュネーブ諸条約について学んだことにさかのぼりますが、実際に働くに至るまでは、紆余曲折いろいろありました。当初は、開発を通じて途上国支援に関われればと思っていたので民間のシンクタンクで開発協力に携わる仕事をしていました。その後、国連ボランティアで中央アフリカ共和国へ行ったことを契機に、「忘れられた紛争」で苦しんでいる人たちの助けになりたい、と思うようになりました。また、支援を必要としている人のそばで長期間働いてみたいと以前から考えていたこともあり、総合して人道支援の方が自分には向いているかなと思ったのです。東京にICRCの駐日事務所が開設されたということを知り、自分もICRCで働けたらいいなと興味を持つようになりました。
<<現地での仕事について>>
前村さんは、コートジボワールでは収容所訪問を主な職務とし、セネガルでは収容所訪問に加え、文民の保護、家族の連絡回復・再会支援などを担当した。
-コートジボワールもセネガルも西アフリカに位置し、フランス語が公用語という共通点がありますが、二つのミッションにおいて、仕事のやりやすさに違いはありましたか?
国が違えば環境は異なるので単純比較は難しいですね。同じ国であっても、地域が変われば現地で使われる言語も異なります。
それを踏まえてお答えすると、セネガルはICRCに入って2年目の赴任地だったので、仕事にも慣れてきて、やりやすくなった部分がありました。ただ、さまざまな責任も伴います。自分で決断することも多く、そういう意味では難しいなと感じる時もありました。
二つのミッションとも同僚には本当に恵まれました。みんな仕事の経験が豊富で、助言を惜しまず接してくれて、とても助けられました。コートジボワールでは、私と同じような1年目の職員が複数いたので、彼らと一緒にワイワイ過ごした時間も良い思い出です。
-収容所訪問について伺います。収容所の状況を改善するのは難しいと思うのですが、どのようにして促すのですか?
ICRCは、人道的観点から収容所における状況と被拘束者の処遇の改善を目的とした収容所訪問の活動を世界各地で長く実施してきており、さまざまな分野での知見を持っています。私はプロテクションという部署ですが、その他にも、保健の専門家、技術者など、多種多様な専門家がこの活動に携わっています。
収容所訪問の中で何か懸念すべき点や問題点を見つけたとしても、その原因はどこか、どうすれば改善できるのか、一つひとつ見極めて判断するのは決して簡単ではありません。チーム内でいろいろ話し合い、適切な提言ができるように考えます。また、国や収容所の場所によって、社会・文化的状況、制度など異なりますから、どんな問題に対しても、先入観を持たないことが重要です。先入観を持ってしまったら、おそらく解決できないと思います。
収容所訪問にあたって、非常に重要なことは関係当局側との対話の方式です。ICRCが収容所訪問で得た情報について、外部に発表することは基本的にはありません。ICRCが収容所訪問の原則をわかりやすく説明するにあたって、「訪問活動を実施していることは話すが、訪問中に見たことは言わない」と言うことがあるのですが、まさにその通りです。このような対話関係に基づいたうえで、相手側に改善を促します。また、収容所訪問を繰り返すことで、状況をモニタリングしていきます。
-ICRCの仕事をしていてよかったと思ったことはありますか。
仕事を通して誰かの役に立ったのであれば、本当にうれしいです。被拘束者が家族と近況をやり取りする「赤十字通信」という短い手紙があるのですが、家族や被拘束者に届けると喜んでもらったり、涙ぐんだりして、一緒にいる私もほろっとしてしまうことがよくありました。また、収容所訪問が終わった時や報告書を完成させた時は達成感で一杯になります。一つ一つのことが、些細なことであっても嬉しいですね。
-将来人道支援の仕事に携わりたいと思っている人へ一言。
人道支援の形はいろいろあります。自分の得意分野、自分の信じる道を、あきらめず、後悔しないようにいろいろと試してみると良いと思います。
インタビュー日:2017年1月
聞き手:インターン 岡田 航