捕虜の保護におけるICRCの役割とは?―オレニウカの収容施設におけるケース
ウクライナ/ロシア(ICRC)―オレニウカでの攻撃に関する報道は人々に衝撃を与えました。私たちは、到底容認することのできない凄惨な攻撃によって、大切な人の命が脅かされたことに心を痛め、苦悩している人々の気持ちに寄り添います。また、捕虜や、本来保護されるべき人々に対する攻撃のすべてを強く非難します。
ウクライナ紛争下での赤十字国際委員会(ICRC)の役割や、捕虜支援活動、捕虜の権利に関するジュネーブ諸条約の内容などについて、私たちのもとに多くの質問が寄せられています。オレニウカのケースにも言及しながら、以下に回答していきます。
オレニウカの攻撃が起きて以降、ICRCは何をしてきたの?現地入りしたことはあるの?死傷した捕虜たちを以前訪問していたの?
私たちは、攻撃があったとの一報を受けた直後に、オレニウカの収容施設をはじめ、被害者が治療を受けている場所、遺体が搬送された可能性のある場所、および捕虜が移送された可能性のある施設への立ち入りを要請しました。また、負傷者の避難支援に加えて、医療品や防護具、法医学用の物資の寄贈を申し出ました。
しかし、私たちは、8月8日時点で、被害にあった捕虜たちに会えていません。訪問の際の身の安全の保障が得られていないからです。物資の寄贈についても返答はありません。
私たちは、人道上の使命とジュネーブ諸条約に基づく任務に基づいて、オレニウカのみならず、捕虜がいるすべての場所に訪問できるよう引き続き要請していきます。
許可が得られれば訪問できるの?そこでは何をするの?
オレニウカ訪問の準備はできています。私たちは、すでに2014年からドネツクに拠点を構えていて、医療や法医学の専門知識を持つ職員が近隣地域で活動しています。オレニウカの施設にいる捕虜、また、かつて収容されていた捕虜へのアクセスに加えて、職員の任務遂行のため、安全なアクセスを保証するよう紛争当事者に求めています。
現地入りが実現すれば、ICRCは、死傷者への対応に加えて、捕虜と立会いなしで個別に面会して登録を行い、収容の状況や待遇について話をするつもりです。国家は、国際人道法やジュネーブ第3条約の法的義務に基づき、私たちが捕虜とこうした面会を行うことを許可しなければなりません。
また、捕虜が国際人道法の定める基準に則った扱いを受けているかどうかを判断するために、私たちは必要に応じて繰り返し訪問できるよう働きかけていくつもりです。こうした訪問を通じて、捕虜とその家族が連絡を取り合えるようにするのも、私たちの大切な取り組みです。
ICRCは以前、オレニウカの捕虜を訪問できていたの?
ICRCは、5月に2度、当該施設を訪問しました。一度目は、施設内で捕虜のニーズを把握し、二度目は給水タンクを施設の外に届けました。ただ、通常許されるべき、捕虜との個別面談はいまだ実現していません。ジュネーブ第3条約に基づき、私たちは国際的武力紛争下において、収容されている場所がどこであろうとすべての捕虜に会うことが認められなければならず、訪問先も自由に選べる権利を有します。2022年2月以降、同僚たちは一部の捕虜との面会は果たせましたが、全員には至っていません。
ICRCは、国際人道法違反や戦争犯罪について公的な調査を行っているの?
公的な調査は、攻撃の背後にある事実を突き止め、起こった出来事を明らかにするための一助です。ICRCとしては、そうした調査は行いません。国際人道法違反の疑いのある行為を調査し、公的に説明する役割や任務を負っていないためです。司法手続きにも関与しません。ICRCは、いかなる司法・調査機関に対しても証言を行うことはなく、法的手続きのための情報を提供することもありません。これは、国際法によって規定され、守られている権利です。これは、中立・独立・公平を掲げ、世界各地で展開している私たちの活動を維持し、紛争当事者の信頼を失わない意味でも重要です。ICRCは、紛争当事者と守秘義務に則って対話し、私たちの保護や支援を必要としている人たちへのアクセスを得ています。私たちが見聞きすることが、いずれ白日の下にさらされるという懸念を紛争当事者が抱いてしまうと、私たちがたどり着いて寄り添わなければならない人たちへのアクセスが断たれかねません。
そもそも私たちは、紛争当事者に国際人道法の遵守と尊重を促すため、守秘義務に則った二者間対話などを通じて積極的に働きかけています。こうした対話を行う上で、人道法違反の疑いがあれば文書化し、懸念を伝え、人道法上の義務を全うするよう非公開で直接伝えます。人々の苦しみを防ぎ、命を守ることを究極の目標として、武力紛争の当事者の行動に影響を与えるべく私たちは行動します。しかし、究極的には、捕虜をはじめとした国際人道法によって保護されている人々の生命や尊厳、健全性を守る義務を負っているのは、紛争当事者なのです。
アゾフスターリ製鉄所から出て捕虜になった人々の安全をICRCは保証したの?紛争当事者によるジュネーブ諸条約の遵守をICRCは保証できるの?
ICRCは中立な仲介者として、紛争当事者と連携したうえで、製鉄所から戦闘員を安全な経路を経て導き出す手助けをしました。また、その時点で捕虜となった人々の情報を登録しました。これらのことは、該当する国際人道法の諸規則に従って、ICRCが後に捕虜を訪問し、その処遇を確認し、家族と通信できるよう支援することを前提として実施されました。
敵の手に落ちてしまった捕虜の身の安全は、私たちには保証できません。そうした権限がないからです。このことは、当事者に事前にきちんと伝えていました。暴力行為や脅し、公衆の好奇心、そして戦闘の影響から捕虜を確実に保護することは、紛争当事者の義務です。紛争当事者のみが、捕虜の身の安全を徹底できるのです。ジュネーブ第3条約に基づく捕虜の権利についての詳細は、こちら。
私たちは、紛争当事者によって収容されている一部の捕虜を訪問することができましたが、前述した通り、オレニウカに収容されている捕虜を含め、すべての捕虜との面会は果たせていません。まだ会うことが認められていない捕虜についても一度ならず繰り返し訪問し、人道上の任務が果たせるよう便宜が図られなければなりません。最終的に、ICRCがそうした任務を遂行できるかどうかは、国際人道法上の義務を遵守する立場の、当事者の意思にかかっています。
ジュネーブ諸条約に基づく、捕虜の保護と支援に関するICRCの役割とは?
ジュネーブ第3条約は、捕虜が収容されているすべての場所を訪問する権利をICRCに認めています。私たちには、訪問先を選ぶ完全な自由があります。前述してきたように、捕虜の処遇を確認するために個別に繰り返し面会することに加えて、捕虜のいるすべての施設を訪問し、国際人道法の定める基準を満たしているかを見定める法的権利があります。その目的は、捕虜の尊厳と健全性が尊重され、収容状況が法律や国際的に認められた基準に則っているかどうかを確認することです。
同条約はまた、ICRCの中央追跡調査局に対して、公的なルートであれ私的なルートであれ、捕虜に関するあらゆる情報を収集して一元管理し、紛争当事者や家族に伝えるという特別な役割を与えています。敵の手に落ちた捕虜の状況を説明することに加え、家族にも情報を提供することで、捕虜が行方不明になる事態を防ぐのに役立っています。
捕虜の家族は、ICRCとの連絡が取れないと言っているけど?
たくさんの家族から電話やメールが寄せられていることは事実です。迅速に対応するべく、できる限りのことをしています。オレニウカでの攻撃に巻き込まれたのでは?と身内の安否を心配してやまない家族にとって、何かしらの情報が届くのを待っている時間は、非常に長く感じられると思います。私たちは、そうした家族に対して多種多様な問い合わせ窓口を設けています。実際、大切な身内についての情報を待ちわびている家族は多くいます。入手した情報は、私たちが責任をもってすぐさま家族のもとに届けています。